これまでのあらすじ
 善なる一党は無辜の民を守らんと尽力す。
 街に忍び寄る血風党マガンテの魔の手。更に、北方より来るデーモン達。
 危難はいや増すばかりである。
 そんな中、街の領主である少年ウィルは自ら街を守護せんと力を欲す。
 インプ、その願いを聞き届け、ウィルに囁いた。
「ゴッドクロスこそが力の源なり。そを手にし者は大いなる力を得るであろう」
 そう、それは枯枝城の城主であったマガンテが辿りし道と同じなり。
 ウィルは、ゴッドクロスを手に入れたならば魂を引き渡す、とインプと契約し、悪魔達を呼び出す。
 ゴッドクロスを奪わんとする悪魔達と一党との死闘。
 悪魔達に追われつつ、一党はウィルを救うことを望む。そのために下した決断は、ゴッドクロスの破壊であった。
 枯枝城にある大釜こそがゴッドクロスを精製した大釜であり、それを破壊することができる唯一のものである。そうと知った一党は因縁の枯枝城へと再び舞い戻る。
 悪魔達との最後の決戦の末、一党はゴッドクロスを大釜に放り込むことに成功した。
 ゴッドクロスの入手が不可能となったことで、ウィルとインプの契約は不成立となり、ウィルは悪しき心から解放される。ウィルの魂を手に入れ損なったインプは仲間の悪魔達に引き裂かれて果てるのであった。
 こうして、ウィルを悪魔の誘惑から救った一党。だが、危機は去ったわけではない。マガンテ率いる血風党はいまだ健在である。北辺ではこの地を飲みこまんとするデーモン達が血風党と血で血を洗う攻防を繰り広げているという。
 ゴッドクロスを巡る因縁に決着をつけたとはいえ、一党の前にはあまたの困難が待ち構えているのだ。
 というところで飽きた。
 あてどない旅である。


 あらすじにあるように、実に込み入った大人の事情があった末に、吾等はまた冒険を再開した。
 決して、アレ以上シナリオを続ける展望が無くなったので放置していたとかではない。
 今回の吾等はこれまでとは全然違う地で、まるで新規シナリオに参加しているかのようにまっさらな気持ちである。
 吾ら一党が足を踏み入れしはアイアンウォールマウンテン、更にその奥深く、木の谷村であった。
 村の旅籠モスホール亭にて、よろず冒険承り中である。
 木の谷村は農民と樵が中心の750名ほどの村とのことであった。
 なんでこんなところに吾等はいるのか?
 いい質問である。
 君はどう思う?
 なんとなく、前にいた街でとうとうヤバいことをしでかしたため、ここまで逃げてきたのではないか、という説が有力である。とうとう?
 それはともかく、ここ木の谷村は交易で栄えていたが、100年前に石牙街道が塞がれて以来ぱったりなのだそうである。石牙街道を管理していたドワーフ達が内紛を起こしたとのこと。
 つまり、この村は峠の茶屋みたいな位置にあって栄えていたのであろうというのが吾等の見解だ。その峠の茶屋が寂れてしまったのだ。これでは団子も食えまい。
 甘味処が無くなったが故に、ドワーフ達も街道の管理どころではなくなった。そうして引き起こされし悲劇が内紛という訳だ。何やら主客顛倒しているようであるが、いつものことである。
 ともかく、吾等はこの村の窮状にいたく心を痛めた。どうにかして、昔のような栄華を取り戻させてやらねばならぬ。そのためには、
「じゃあ甘いもの探そうぜ」
 敬虔なるグエドベが言う。と、得たりとばかりに、
「村長の小便だな」
 高貴なるエラドリンが優雅にして全き答えを一党に示すのだった。
 ということで、一党は村長の元へ向かうのがよかろうという結論を得た。
 やった! 無事、村長の所へ話を聞きに行く流れが自然にできた!
 吾等はちゃんとロールプレイできる子達である。


 さて、村長というかこの村の領主というか、そういう立場にあるのがセブリム卿ということである。一党はモスホール亭にて、まずはセブリム卿のことを尋ねるなどする。
 すると、つい先日セブリム卿の館にドワーフ達が大勢やってきたという話である。何でも、匿われているとか。
 これまで、ドワーフ達は人間との交流を避けていたらしい。ドワーフの長であるハルバークがそれを望まなかったからだという。それが今、いかなる理由でこの村に逃れてきているのか?
「オーク達が石牙街道に乗り込んできて、それでドワーフ達は助けを求めているようですよ」
 モスホール亭の主人は善なる吾等に協力を惜しまぬ。快く、事情を語る。その善への献身にグエドベ、心震わせ、
「そいつら、いくら出すって?」
「いえ、そういう話はわかりませんが……」
「使えねえな! 最後までちゃんと聞いてこいよ!」
 主人を宿から蹴りだすのであった。
「では、みすぼらしいドワーフ達を見物に行きましょう」
 高貴なるエラドリンは知ることに旺盛だ。如何なる邪悪や悲劇であろうと、まずは知ることが肝要である。知ることによってのみ、それを防ぎ、救うことができる。そう知っているからこその見物という言葉である。
 セブリム卿の館は朽ち果てた館であった。それでも人を雇うだけの地位ではあるらしい。扉を叩きし吾等に応対せしは館の下男である。
「まず、下男からいくら貰えるか。次に領主」
 敬虔なるグエドベが、吾等善なる一党にどれだけの喜捨を示すことができるか、彼等を試さんと欲す。
 下男の案内により、一党はセブリム卿の元へとたどり着く。
「ラングリム殿の求めに応じて来られたか?」
 セブリム卿の言葉に、吾等は、
「ラングリムって?」
「ドワーフの氏族長ハルバーク殿の息子のことだが」
「ということは、私のことですか」
 高貴なるエラドリンが自らの出自を暴露した。エラドリンのくせに。ドワーフ王族と大変近しい関係であるという。ハルバークが死ねばその全てを受け継ぐべき存在。それが高貴なるエラドリンであった。
「いや、取れるだけ取れればいいかなーって」
 高貴なるエラドリンはその意図を淡々と述べる。高貴なるエラドリンの主張する系譜によれば、ドワーフの長ハルバークの遺せし物は全て彼のものでなくてはならぬ。そこにラングリムなどという者が介在する余地は無い。
「オークよりひどいな。逃げろ、ラングリム」
 敬虔なるグエドベは哀れなドワーフのことを祈ってやるのだった。


 哀れなことに、ラングリムは逃げていないのだった。
 20人ばかりのドワーフ避難民達の中に、1人しっかりした身形の若いドワーフがいる。それがラングリムであった。
 彼は吾等に助けを求める風である。石牙街道のオーク達を退治してほしい、と。
 ここでメリケン風の冒険者なら一も二もなく承諾、血なまぐさい暴力による解決を目指して何ら恥じることは無いのであろう。だが、吾等は真の意味で善なる一党である。そのような短絡的な力による解決は、解決の名に値しないことを知っている。
「よし、じゃあまずお前が行け」
 吾等はラングリムに石牙街道奪還の尖兵となるように説得を試みるのだった。これは、他者により与えられた自由や平和など泡沫の物に過ぎぬ、真なる物は自らの手で勝ち取ってこそである、という吾等の思いやりの表れである。ただ与えられるだけではない。自助努力することで、人は誇りをも手にすることができるのだ。そして、自らが苦労して得た自由や平和ならば、人は失わぬように大切にするであろう。それこそが、より長きにわたって人々に幸福をもたらすことを吾等は知っている。
 決して、いつものように利用できそうなNPCはとにかく仲間(盾)にして自らのリスクを減らそう、などという意図は持っていない吾らだ。だから、20人ばかりのドワーフ避難民(女子供ばかり)も動員して石牙街道へ連れていこうなんて少しも考えなかった。
 ところで、ラングリムは意外にも吾等と石牙街道に同行することを拒むのであった。というのも、ラングリムは武器1つ身につけていないからだという。
「丸腰か」
 高貴なるエラドリンが何かとても含むところのある眼差しで哀れなラングリムを眺めるのだった。
 遺産相続的な意味で何らかの危険を察知したのか、ラングリムは懇願する。
「真に善なる一党ならお助けください!」
「真では無いからなあ」
 敬虔なるグエドベがさらりと真実を漏らした。
 仕方ないので報酬の話をする。オークを追い払ったら1人に金貨100枚払ってくれるという。あと、ルビーの指輪。
「オーク達は石牙街道を支配して、通行する者達から物を奪ったりしたいのでしょう」
 ラングリムは言う。
「私達を襲ったのは目を痛めつける者達と名乗るオークの一族でした」
 どうやら、ラングリムは色々と他にも伝承を知っていそうな風である。であるならば、それら伝承にも耳を傾けるが常道であろう。
「じゃあアジト探ってきて」
 高貴なるエラドリンがラングリムに伝承を教えるよう要請する。ラングリム、無反応。
「自分では何もしないのか!?」
 高貴なるエラドリンは激怒した。そして、
「僕と君は友達じゃないか!」
 速やかにフランクな関係を構築。
「金が続く限りはな」
 敬虔なるグエドベがさらりと真実を漏らした。
 いい加減疲れたのか、ラングリムは吾等を見て言う。
「お前らまだいたのか」
「お前もまだいたのか」
 どうあっても石牙街道へ連れ出したい所存の吾らである。


 ラングリムが泣いて、伝承を聞いてくれ、と頼むので聞いてやらないこともない。
 曰く、石牙街道とは、山脈を越えるためのトンネルのことであるという。そは巨人が作りし遺物。石牙はそれら巨人達の中のリーダーの名前だった。
「で、そのジャイアントはいくら出すんだ?」
 敬虔なるグエドベが吾らへの喜捨についての喚起を促した。が、ラングリムは冷酷に話を進めるのであった。
 で、巨人達を倒したドワーフがその街道を自分達の物としたのだという。
 距離的には、この村からは北東に1日くらいか。
 近頃、ドワーフ達は街道の再開を目指して砦の改築をしていたが、それがオーク達の目に止まり襲われたのであろうということだ。
「私達が逃げる途中、我が兄モルデライが街道の扉を閉めました。オーク達が私達を追撃できぬように。ですから、扉の前にモルデライが待っているはずです」
 身を捨てて一族を救わんとしたモルデライなるドワーフの勇気に、グエドベ深く感じ入り、
「モルデライはいくら持ってる?」
 ラングリムは冷酷な男なので話を続ける。
 そのモルデライが閉じた扉と反対側の街道の出口に、ドワーフ達の村と砦があるという。
 更に、おそらく『日陰に繋がれた者達』がオーク達を引きいれたに違いない、とラングリムは言うのだ。『日陰に繋がれた者達』というのはこのドワーフ達の一族の一つで、顔に入れ墨を入れている者達である。ドワーフ達の中では地位が低い連中であるようだ。
 といったところで、シナリオの背景を話し終えたラングリムはさっぱりした表情である。じゃあ、あとは助けに行ってきて、と言わんばかり。
「弟のお前は行かなくても、俺等が行くよ」
 吾等は実に快く石牙街道の奪還を約束するのであった。


 で、出発するのももう遅い。ということで、明朝出発することにする。旅籠モスホール亭に泊まるのも金がもったいないのでセブリム卿の館の離れに泊まり込むこととした。吾等善良なる一党に軒を貸すは、セブリム卿にとっても誉であろう。善行をつんだ。
 と、離れで寝ていると年老いた声で、開けてくれ~、ときた。
 招き入れてみれば、年老いた老女のドワーフである。ハダラなる老女であった。
「ハダラはいくらくれる?」
 ハダラは冷酷なので話を進めるのであった。
 ハダラには年若い友人がいる。名をフリンカ。例の『日陰に繋がれた者達』の一員であるという。ハダラがオーク達から逃れる際、1人でオークに立ち向かい、食い止めてくれたのだという。
「100年前の内紛は『日陰に繋がれた者達』の所為だという者もいますが、実は氏族の他の者達の所為なのです。その者達が『日陰に繋がれた者達』の宝を奪ったのが内紛の切っ掛けでした。そして最近、その宝が見つかって街道再開ができるようになったのです」
 ハダラの話はラングリムのそれとはいささか異なるようであった。どうも隠された何かがありそうではある。『日陰に繋がれた者達』はオーク達を引きいれた裏切り者ではないのか? ただ『日陰に繋がれた者達』はモラディンとトログを信仰しているという。モラディンはともかく、トログは牢獄とか拷問の神ではないか。そんなものを信仰している連中が善良とはとても思えぬ。
 ともかく、ハダラはフリンカの身につけていたセンディングストーン(離れていても意思疎通ができる魔法の石)を持ってきて欲しいとのことであった。
「おそらく彼女はもう生きてはいないでしょう。ですが、私達を助けてくれた彼女の形見として、その石を取り返して欲しいのです」
 吾等はハダラに安請け合いして石牙街道へと旅立つのであった。


 さて、石牙街道である。
 石牙街道は、モルデライが扉を閉めてオーク達がこちら側に出てくるのは防いでいる、という話であった。
 なのに街道近くに着くや否や、道いっぱいのオーク達が襲いかかってきたではないか。障害物も何もない場所を、全力で吾等に駆け寄ってくる。そして、石斧の雨あられ。丁度射程範囲にいた吾に集中した。
 これはやばい。みんな早くやっつけて!
 高貴なるエラドリンは行動遅延するのだった。
「……撃破役ですよね?」
「だって怖いじゃん」
 オーク達から距離を取ったまま安全圏を維持する。
 困ったな。とりあえず火を吹いてみた。じゃんじゃん燃えました。どうやら敵の多くは雑魚であったようである。こうして吾が火を吹いて敵をマークした後、高貴なるエラドリンが前進して敵の首領格を切り刻むのであった。
「マークされたから安心して攻めに来た」
 吾がぼこぼこにされている間に高貴なるエラドリンが美味しいところを持っていくという、パーティの役割分担がちゃんとできていて喜ばしい限りである。


 色々思うところはありつつも、石牙街道の扉のところまで辿り着く吾等。
 そこには巨大なレバーがあった。目がついている。それどころか話しかけてくるではないか。
「俺を倒せば扉の開け閉めができます」
 けれど、レバーさんを倒すには筋力40が必要だという。何を言っているのだ、このレバーは。それを可能にする手袋をモルデライが持っていたはずであり、彼を見つけねばならぬ。
 と、レバーさんのいるところから横に道が延びていて、その先に何かいるようだ。他に当てもなく吾等はそちらに向かう。
 オークがいました。
 入り込むとクロスボウがピュッピュ飛んでくる回廊の奥にオーク達が弓を構えて待ち構えている。遠距離での撃ち合いとなった。しかも、
「おめーら、降伏しねーとこのドワーフを殺すぞ」
 モルデライらしきドワーフが捕まっているではないか。あら、困った。善良なる吾等としては困った人を見たら助けねばならない。つまり、モルデライなど見なかったことに記憶を改ざんしなければならないのだ。そうすれば、吾等の善なる心は保たれる。
 だが、そこで吾等は看破する。そのドワーフの表情がニヤリとしたのに気付いたのだ。
「ああ、こいつ偽モノだわ!」
「いいよ、殺せよ」
「真のモルデライなら虜囚の辱めを受けることなく自害するはず」
 吾等は悪の脅迫には屈しない強き心を持った善である。
 オーク達は本当にドワーフを殺そうとしたようだが、そのドワーフが異議申し立てをしたらしく奥へと引っ込んでしまった。奥に更に部屋があるようだ。
 吾等は彼等の後を追うべく試みるが、クロスボウの回廊にアイアンコブラやら弓うちのオークやら邪魔が多い。
「もう面倒くさい」
 と吾がクロスボウとか撃たれるの気にせず突撃。
「あーあ、このままやってれば無傷で敵を倒せてたのに……」
 えへへ。だって、吾は遠距離攻撃とか大してダメージいかないし、突っ込んだ方が手っ取り早いじゃん! であった。
 もちろん怪我をして、回復役の敬虔なるグエドベに嫌な顔をされた。


 とにかく、クロスボウの回廊を潜りぬけて先に進む吾等。
 そこで吾等はオークのデザゴールなる戦士と遭遇する。周囲にはオーク達の死体に先程のドワーフの躯も転がる。
 どうやら、このドワーフはモルデライその人であり、実は最初からオーク達に寝返っていたらしいことがわかる。だが、先程の人質扱いで仲間割れをしここで殺し合ったらしい。
 吾ら一党は残ったデザゴールを手早く片付け、筋力判定に+20の修正をくれる手袋を回収した。
 後は筋力40でレバーさんを倒す仕事が残るのみである。
 といったところで次回に続いた。

 片目のサダームからゴリアテ一家を譲り受けた一党。
 されど、ゴリアテ一家内には一党を快く思わない勢力がいることが判明する。
 その敵対勢力に対して一党はいかように対応すべきか。
 懐柔か。せん滅か。
 一党の懐の深さが試される時が来た。


 のだが、この日のセッションでは一党のリーダー的ポジションのウルヴェントが御休みであった。
 更に今回から一党にゴライアスのウォーデンであるアイスマンが加わる。
 おそらく、アイスマンはスプリンター先生に育てられた孤児の1人であると思われる。一党の他のメンバーと同じだ。だから、一党は旧交を温め合った。
「やあ、久しぶり!」
「いたんだ!」
「実は最初からいた」
 今まで一言も喋らず戦闘にも参加しなかっただけで、ずっと一党と同行していたことが判明。
 アイスマンは黙して語らず、巌のような男である。


 さて、一党はゴリアテ一家の幹部連中を試すために、幹部会を開くことを決めた。一党の呼びかけに素直に従えば生、欠席したら死である。
 早速、幹部会を開く旨、知らせる使者が送りだされる。
「知りませんでした、で死んじゃうのも可哀想だからね」
 一党はこういう心配りもできる細やかな神経の持ち主である。
「幹部会のもてなしに、妙に苦い酒を用意しておこう」
 一党はこういう心配りもできる細やかな神経の持ち主である。
 呼びかけに素直に従えば死、欠席しても死である。
 しかし、と一党は考える。今この場に居ないリーダー、ウルヴェントならこの状況でどうするであろうか? リーダー不在の今、一党の行動を決めてしまってよいものか?
「明日のために暴れるべきか、ゴキブリホイホイに入ってくるのを待つか……?」
 一党は悩んだ。そして、1つの解決法を見出す。
 ウルヴェントならどうするか考えて、その逆をやるべき。それこそが一党の指針となるであろう。というわけで、ウルヴェントなら絶対やらないことを選択してみる。
「よし、田舎に帰ろう」
「就農しに帰らなきゃ」
「実は今日、女王スリクリンの誕生日だからお祝いしに帰らなきゃいけないんだ」
 などとグダグダしていると、ハシシの売人達が転がり込んできた。
 説明し忘れていたが、一党は鬼面御前のいる酒場『桃源郷』にてグダグダしていた。そこへ彼女の配下であるハシシの売人達が駆けこんできたという状況だ。
 売人達は口々に訴える。
「街中がピリピリしてて、商売がやり辛いったらねえです」
「何があったのか、シャイアーンの兵隊達が武器持ってシマの中をうろつき回ってます」
「殺気立ってて危ねえ。とてもハシシなんか捌けねえ」
 そのような報告を受けて、座視する一党ではない。早速、そのシャイアーンの手下がうろついているシマへと案内するよう命ずる。ハシシの売人は気乗りしない様子で、
「案内しますけど、気をつけてくだせえ」
「お前がな」
 一党は街へと繰り出した。スラム街へと向かう。すぐにシャイアーンの手下らしいチンピラ連中と目が合った。チンピラ達、目を見張り、
「やべえ、本当に来やがった!」
 どうやら一党のことをご存じの様子。
「ならば、そのチンピラ連中を呼び寄せる」
 と、イモコが威圧でいうことを聞かせようとした。
 威圧のロールの結果は7。
 唾を吐きかけられるレベル。
「じゃあ、一緒に」
 ワンコがイモコに唾を吐きかけた。
「凹むなよ!」
 ワンコがイモコを慰めた。そして、
「舐められるのもヤバいし、殴っとく? とりあえず威嚇だけしとくか。顔は覚えたからな! ばーかばーか!」
 チンピラ達を威嚇した。それでチンピラ連中の冷え切った心もほんのり温かくなったのか、
「こんな奴らが、本当に殴りこみに来たのか?」
 一党が攻めてきたと思っているようだ。どうしてそうなるのか。
「ボエーの所の兵隊がお前らにやられたって聞いたぜ!」
 前回の、ボエーを取り逃がした遭遇が原因らしい。
 ボエーが一党の無道ぶりをシャイアーン一派に吹聴し、警戒を呼び掛けているのだという。
 ちなみにこのチンピラ達はボエーの配下ではないようだ。ノビーという男に従っているという。ボエーとノビー、どちらもシャイアーンの兵隊達を取りまとめる子分である。
 一党は誤解を解こうと試みた。
「あれはちょっとした手違いだ」
「不幸な出来事だった」
「それに比べて、君達は運がいい」
「出会った瞬間、死んでしまうこともある。ここで死んでもおかしくなかった」
「運がいいのは今日だけだぞ! 明日どうなっても知らないからな」
 自然な流れで脅迫。そして自然な流れで、
「ノビーに伝えるといい。今日中に部下の非礼を詫びに来るように。来なければ君らが死ぬ」
 上から目線。
 ともかく、シャイアーンの手下達は一党が自分達を襲ってくると思って警戒しているということだった。
「期待されてるならやらなくちゃなー。なりたい自分より、期待されてる自分にならなくちゃ」
 ワンコが前向きなことを言った。というわけで、
「こいつらが後ろ向いたら斬らなきゃ。ウルヴェント流になんかやっとく?」
 ウルヴェント流とは喧嘩を売りつけること(嫌だと言っても高額で買い取らせる)と同義である。
 と、チンピラ達が急に目配せしだすではないか。怪しい。
 はっと気付けば、一党はシャイアーンの兵隊達に囲まれている。その中から、ずい、と出てきた男こそ、
「オレはシャイアーンさんのところのノビーってもんです。あんたら、ここへ何しに来たんです? 揉め事を起こそうって気ですかい?」
「お前がノビーか」
「早速詫びに来るとは殊勝な奴」
「その態度に免じて警告しておいてやる。お前のボスのシャイアーンに言っとけ。明日の幹部会には出席するようにな」
 一党の寛大な申し出。だが、ノビーは首を横に振るのだ。
「シャイアーンさんは、たぶん行きませんよ」
「なんで? ていうか、お前勝手に上の気持ちを推し量るようなことしていいの?」
「シャイアーンさんも幹部会を開くからです」
 どうやら、一党が幹部会を開くのに対抗して、シャイアーンも自ら幹部達を招集したのだという。しかも、一党が開く幹部会にぶつけるようにして。これで、幹部達がどちらに付くのか見極めようという腹らしい。もちろん、自分の方の幹部会に出席しない幹部は殺すつもりであろう。
 そういうノビーの表情は厳しい。
「最近のシャイアーンさんはおかしいんでさあ。正直、今のシャイアーンさんにはついていけねえです」
「奇遇だな! 俺達もウルヴェントにはついていけないんだよ!」
 仲良くなった。
 仲良くなったついでに、黄金のイニックス亭3号店で待ち合わせることにする。ノビーも色々、上司の愚痴を言いたいらしい。
「とにかく、シャイアーンさんの周りでおかしな死に方する奴が多くて……目、鼻、口、から血を噴き出して死ぬとか、そんなのばっかりです。噂じゃ化け物が殺してるって話もありやして……」
 一党はその死に様から、彼方の領域からの来訪者、異形系の怪物達のことを思い浮かべるのだった。
「なんか、シャイアーンはほっといても死んじゃうかも」
「異形に取り憑かれてるだろ」
 そういった詳しい話は黄金のイニックス亭で、とノビーは言う。流石に、道端で一党と話をしていてはシャイアーンにどう思われるかわからない、とのこと。
 というわけでその日の夜、一党は待ち合わせた通りにノビーと再会する。
 ノビーは開口一番言うのだ。
「シャイアーンさんは恐ろしい人です」
「こっちの方が恐ろしいって!」
「この人すごいんだから!」
 一党はウルヴェントをほめそやした。
 ノビーが話を続ける。
「シャイアーンさんも元はここまでじゃなかった。今みたいになったのは、『先生』が出入りするようになってからなんです」
「『先生』って?」
「最近、シャイアーンさんに取り入って色々助言してる奴でして。素性の知れねえ奴です。噂じゃ人間じゃないらしいです」
「人間じゃないなら、パンダとか犬とか金魚じゃねえの?」
 一党はノビーの懐柔を試みた。
「お前もこのままシャイアーンの傍に居たら危ないよ?」
「このままだとワンちゃんの餌になってバクムシャーってされちゃう」
「助かりたかったら、抜ければいいじゃん」
 というわけで交渉のロールも良かったりしたので、ノビーは以後、シャイアーンの元に居ながら一党の手伝いをすることを約した。有り体にいえば、情報提供・スパイである。
 さてここで、
「ウルヴェントだったら先手を打つよね!」
「明日の幹部会を待つとか、状況に受身ではないよね。むしろ、自分から状況作ろうとするよね?」
 と、一党はウルヴェント流を極めんと欲す。
「シャイアーンに会いに行こう!」
 一党は思い立ったが吉日とばかりにノビーを見つめ、
「この人の首持っていこう」
「『先生』の晩御飯になりに来たぞ! ノビーが」
 『先生』とやらの暗殺を目論む一党。けれど、シャイアーンの居場所がわからないのだった。ノビーも知らぬという。シャイアーンは用心深く、毎日居場所を変えているらしい。
 では、仕方がない。
「シャイアーンは『先生』とできててホモらしい、って他の幹部に教えて仲間になってもらうのはどうかな」
 次善の策として、一党は他の幹部の取り込みを試みた。
 誰に働きかけるべきか。
「最後は経済戦争ですよ」
 ゴライアス・ウォーデンのアイスマンがメガネを光らせる。どうやら一党はインテリヤクザを仲間に加えたようだ。
 という訳で、幹部の中で金を持っていそうな奴にウルヴェント流しに行くことにする。狙うは密造酒作りをしているアコギという男。幹部の中で一番経済力がありそうだ。
 一党はアコギの持っている密造酒工場へと乗り込んだ。
「頼もうー。ここの主人のアコギを出せ!」
「あいすいません、主人は今仕事中で、ぎゃー」
 でてきた工場のおっさんを問答無用。穏便に、とか無し。
「だって、穏便なやり方だと時間がかかりますが、結果を求められているのは明日なので」
 アイスマンは仕事ができるインテリヤクザです。
 かわいそうなおっさんに一党は迫るのだった。
「アコギを出せって言ってんだよ」
「アコギさんに何の用ですか!?」
「何の用だろう?」
「選択肢は2つある。殺すか、死なすか」
 あまりの酷さに、ここで一党のアライメントは何だろう? と議論になった。
「ていうか、アライメントとか聞いたこと無い」
 何ソレ? 美味しいの? 状態。
「誰かのために戦う、とか無いもんなー」
「俺達って友達とかいないしね」
「正確には、友達になれない。奴隷しかいない」
 一党の人間関係は大抵、片務的である。自分達以外は全部従属。
「神様とか何を信仰してるんだ、俺ら?」
 ダークサン世界では神への信仰が廃れているという設定なので、
「自分の絶望全て神の所為」
「こういう性格なのも神の所為」
 しまった、この人達クズだ。
 一党は幹部であるアコギを出せ、とかわいそうなおっさんに迫る。が、ここにはいないの一点張り。
「ていうか、本当に何しに来たの?」
「何か流れで殴り込みに」
「ごめん、一日毎パワー使いに来たわ」
 勿体ないからね。
 なんかこのまま手ぶらで帰るのもアレなので、一党はこの密造酒工場を接収することにした。
「じゃあ、このおっさんに工場の管理を任せる」
 かわいそうなおっさんに無理やりやらせるのだった。
「わたしはただ玄関対応に出ただけなのに、なんでこんな酷いことになってんだ」
「人生一回だけだからな。長いか短いか決めるのはお前次第だ」
 ワンコがもっともらしいことを言った。


 翌日。
 いよいよ幹部会の日を迎える。
 一党は鬼面御前の酒場『桃源郷』にて幹部達を待った。
 だが、芳しくないのだ。
 盗賊達を仕切っている幹部セアブラは本人ではなく、代理人を寄こしていた。
「主人は多忙で参ることが適いません。また、主人はシャイアーンの方の幹部会にもやはり代理人を出席させております」
 代理人は言った。一党とシャイアーンを天秤にかけているといったところか。
 娼館の主人、マダム・トカレフは急病のため欠席するという。
 始末屋達の元締めクビナシからは、なしの礫。一党とシャイアーン、どちらも無視した格好だ。
 人身売買をやっているカナリという幹部はシャイアーンの幹部会に出席したという。
 さらに、密造酒作りのアコギもシャイアーン側についた。
 一党の幹部会に出席したのは鬼面御前と、もう1人。賭場を仕切っているドツボという男が、
「た、助けてください、頭領!」
 慌てて駆けこんできただけである。
「うちの賭場がシャイアーンの子分のボエーに襲われてるんです! このままじゃ賭場の連中がみんなやられちまう!」
 一党の幹部会に参加した者への見せしめということか。
「ここでドツボを助けてやれば、ドツボは貴様等に忠実な味方になるだろう」
 鬼面御前の言葉もあって、一党はドツボの賭場救出へ向かう。
 賭場ではボエーとその手下達が絶賛狼藉中であった。しかもボエー、一党がやってくるのを見るなり、
「バカめ! こっちに来やがって! 今頃、『桃源郷』は楽しいことになってるだろうよ!」
 一党をあざ笑うではないか。どういうことかと問い質せば、
「別働隊が鬼面御前を殺しに行ってるんだよ。具体的に言うと、5ラウンド以内に俺達を倒さなければ、『桃源郷』が大変なことになるぜ!」
 ボエー達は結構な人数である。
「ムリだよ」
 一党は諦めた。
「そこは一日毎パワーやアクションポイントを使って頑張るんだな!」
 ボエーのアドバイスに一党は感じ入る。
「もしかして、いい奴なのか、こいつ?」
「惚れた」
 殺すけど。
 実際、ボエーとその手下達をギリギリ5ラウンド以内でせん滅。ボエーの断末魔が賭場に響くのだった。
「ボエーが死んで、うちの店も安泰でさあ!」
 賭場の幹部ドツボが感謝の言葉を述べてきた。だが、それどころではない。ボエーの言葉が本当なら、『桃源郷』の鬼面御前が危険である。
 一党はすぐさま取って返した。
 そして、ボエーの言葉通りだったことを知る。『桃源郷』に敵が押し入っていた。今にも鬼面御前やその護衛に襲いかからんとしているではないか。もう少し遅かったら全て手遅れになっていたところ。
「ボエーの生首を投げ込む。おら、おめえらの仲間は失敗したぞ! って先制威嚇」
 なんか持ってきてたらしい。
 投げ込まれたボエーの生首を見て襲撃者達は、
「ガブガブガブー、って食べちゃった」
「あ、そういう奴らが来てんだ?」
 敵が異形の化け物どもであることが判明しつつ次回へ続く。

. なんか戦闘にかまけてたら、プレイ中ほとんどメモ取ってませんでした。
 細かい経緯とかキャラの発言とか抜け落ちてます。


 それと私事で恐縮ですが11月10日に電撃文庫から拙著『イヤになるほどヒミコなヤンキー』 が発売されます。
 どうか買ってください。買わないと死ぬ。私が。
 次のセッションで皆きっと購入して持ってきてくれると信じてる、あたし。


 では本題。
 一党は片目のサダームからゴリアテ一家を譲り受けた。
 やったー。
 じゃあ法務神官テホイジァン暗殺してきてー、とゴリアテ一家に命令しようにもどうすればいいのかわからない。
 ゴリアテ一家ってどこにいるの? 誰がいるの? 何してる人達なの?
 全然しらないのだった。
 誰に言えばゴリアテ一家が一党の手足となって動くのか。ゴリアテ一家を配下にして利点は何かあるのか。街でゴリアテ一家を見つけたとして、おう、オレ達おめー等のボスなんだけどちょっと焼きそばパン買ってきて、と言えば言うこと聞いてくれるのか。
 あれ? これって片目のサダームに騙された? ゴリアテ一家くれるって言ってたけど、ただの口約束じゃね?
 なんてことはないのだった。
 ちゃんと片目のサダームから言付かっていたゴリアテ一家の幹部がいるという。
 名を鬼面御前という。ゴリアテ一家のナンバー2でハシシを取り扱っているスリクリン。女幹部だそうだ。
 その鬼面御前から一党に使者が寄こされる。
「鬼面御前が皆様方にお話ししたいことがあると申しております。ご案内いたしますので。どうか同行願えませんでしょうか」
 鬼面御前の副官だというハーフエルフは低姿勢で願い出てきた。一党はそれに同意し、バザール近くの酒場へと案内される。『桃源郷』という名の酒場である。事情通などでチェックしたところ、この店はハシシと縁が深い店だという。売人が取引に利用したり、実際に客がハシシを吸引したりしている。鬼面御前が実質的に取り仕切っている店なのであろう。
 その店に、一党は足を踏み入れる。
「お客さん、今日は大事な話し合いがあるんで、シロウトさんは立ち入り禁止だよ」
 桃源郷の主人が一党に警告する。一党は早速威圧。
「その大事な話し合いの相手が俺達なんだけど? ていうか、俺達がゴリアテのボスなんだけど?」
 桃源郷の店主は後退りして背後の棚に激突。棚から大量の酒瓶が落下し割れた。
 びびった店主は店の奥を指し示す。
「鬼面御前ならあそこでお待ちです」
 見れば、馬の生首のお面を被ったスリクリンがテーブルについている。その脇には用心棒らしいゴライアスが2人。その他に下っ端らしい連中が10人ほどズラッと並んでいた。
「……来たか……予知の通りだ」
 馬の生首のお面をつけたスリクリンが思わせぶりに呟いた。
「馬の生首か―。じゃあ、俺はそこの下っ端の生首でお面つくるよ」
「それ、悪ふざけで人を殺してるよね?」
 鬼面御前は話し出す。
「片目のサダームから話は聞いている。ゴリアテ一家の新たな頭領の座を貴様らに譲った、と。私はそれを認めるにやぶさかでない。貴様らを新たな頭領として受け入れてもいい。もともと片目のサダームもゴリアテ一家を乗っ取って頭領の座に就いたのだ。だから、今度は貴様らが新しい頭領としてゴリアテ一家を手に入れるのもいいだろう。
 だが、片目のサダームとていきなりやってきて、いきなり頭領になったのではない。一家の中で功績を上げ、人脈を築いて地歩を固めた。そうして信頼を得て、統率を示した上で頭領の座を奪い取ったのだ。貴様達も、突然見ず知らずの相手が現れて、『今日からオレがお前のボスだから言うこと聞け』と言われて素直に従うか?
 だから、貴様達には組織内で信頼を得てもらいたい。統率力を示してもらおう。そうすればゴリアテ一家の皆も自然と頭領と認めるだろう。私もその手助けを約束しよう。それが片目のサダームから頼まれたことだ」
「なるほど。言いたいことはわかった。だが、お前のその偉そうな口ぶりがムカつくのでぶっ殺したい」
 ウルヴェントが率直な意見を述べた。組織を統率するにはまず恐怖からということで、実に的確な判断と言えよう。すると、鬼面御前ニヤリと笑い(お面被ってたけどわかったのだ)、
「やめておけ……私に手を出すと、私の奥底に眠る真の力が目覚めて半径5キロ四方が消滅しかねない……それでもいいのか?」
 キャラ的にスベってる人だと判明。
「ほう。そんな凄い力があるならちょっとテホイジァン殺してきて」
「いいだろう、任せておけ……ただし、今は時期が悪い。我が主星オラクルが大鎧座の星辰に入らねば力が暴走してしまう……そうなればこの星ごと破壊しかねん……時が満ちるまで待つがよかろう」
「それいつだよ」
「500年後くらいかな」
「言っちゃえよ! 本当はそんな力なんて無いって! 正直に言えよ!」
「くっ……やめろ! それ以上私に触れるな……! ……収まれ! 収まれ、我が波動よ……! 闇の力よ……! 貴様等、早く逃げろ! 私がこの力を押さえているうちに……! 私は誰も傷つけたくない……傷つけたくないのだ!」
 もうめんどくさいので放置。
「まあそれはさておき、早速だがゴリアテ一家内の問題を1つ解決した方がいい」
 闇の波動を押さえこんだ鬼面御前はしれっとした顔で言ってきた。
「ゴリアテ一家の中にも様々な幹部がいることは知っているな? その内の一人が仲間から無理難題を吹っかけられて困っている。頭領として、それを解決するがいいだろう」
「内輪もめか? どういうことだよ?」
 聞けば、ゴリアテ一家には今全部で8人の幹部がいるという。それぞれが自分の勢力というものを持っている。で、今までは片目のサダームがそれを取りまとめていた。だが、片目のサダームが消えた今、タガが外れて好き勝手なことをやりだしているらしい。
「ゴリアテ一家の中で賭場を取り仕切っている幹部がいる。名をドツボと言う。幸運の館という賭場の他にもう2店を所有しているのだが、それらの賭場を譲れと脅されているらしい」
「誰に脅されてるんだ?」
「シャイアーンという幹部がいる。この者は他組織との抗争や揉め事を解決するための兵隊を指揮する立場の男でな。ゴリアテ一家内では最も勢力が大きい。そのシャイアーンにはスラムやバザールをそれぞれ根城にする子分どもがいて、その内の一人ボエーというのがドツボを脅している。ボエーが根城としているのはバザール地区だ。その地区にあるドツボの賭場を自分のものにしたいらしい。『お前のところ儲かってるらしいな、くれ!』と」
「幹部の手下が幹部脅すとか許されるの?」
「最大勢力の幹部の手下だ。それに比べてドツボは賭場を仕切ってはいるが自分で抱える兵隊は少ない。片目のサダームがいなくなった今、押さえの効かない連中がそれに乗じようと動き出すのも自然なこと」
「シャイアーンとか、どのくらい兵隊抱えてるんだ?」
「シャイアーンの子分達は4人いるが、それぞれが50人ほどを抱えている。それを纏めているシャイアーンは200人以上の兵隊を動かせる立場にある。一方のドツボは各賭場にいる手下を全部まとめても50人に届くまい。そういうわけで、ドツボは自分の店を守ってくれる後ろ盾を欲しがっている。貴様達が上手くやれば、ドツボは感謝して味方となるだろう」
「シャイアーンとドツボか。それ以外の幹部は? どんな奴なの?」
「では残りの者についても話すとしよう。
 バザールの顔役と言われている男がいる。盗品売買を生業としている男だ。故買屋といえば良いか。名をセアブラという。バザールに自分の店を構えているが、実態は盗人達の頭領だ。奴は手下の盗賊どもを手足のように使う。情報収集に優れているな。盗賊達を30人以上抱えているらしい。
 そのセアブラと関係が深いのが始末屋達だ。要するに暗殺者だな。盗人のルールを破った者を消したり邪魔な商人の家を燃やしたり、まあ、そのような汚れ仕事専門の連中だ。これを取り仕切っている幹部はクビナシというのだが、このクビナシとはセアブラを通さないと話ができない。というのも、このクビナシを始めとして始末屋達は普段どこにいるのかわからぬ。だから、直接話をしようにも話の持って行きようがないのだ。唯一クビナシと連絡方法を持つセアブラに頼らざるを得ん。実際、私もクビナシの本当の顔を見たことは無いくらいだ。始末屋達は契約を重視する。契約に無いことであれば、同じゴリアテ一家内の揉め事であろうと介入しないという態度を貫いておる」
「これで4人。あとは?」
「売春宿を取り仕切っているマダムトカレフを忘れてはならない。バザールの近くに『真夏の夢』亭という娼館を持っているほか、近辺の街娼達を大勢抱えている。娼婦達の組織を代表しているとでもいえば良いかな。金を払わないでやり逃げする男を見せしめに吊るしたりするようだ。
 次に、人身売買をやっている男がいる。手配師カナリという男だ。スラムに事務所を持ち、表向きは日雇い労働者を手配してその手数料を取っている。募集をかけて人夫を必要なところへ連れていくわけだな。そして、自分達の所を通さないで勝手に働こうとする者をシメるというやり口だ。が、裏では人を攫って売り飛ばしたりしている」
「奴隷売買か。ティールの街じゃ禁止されてるはずだろ」
「だから、裏でこっそりだ。他の街へ売りさばけば足がつかない。また、この街の地下迷宮に住む怪物達にも売ったりしているらしい。もともとはかなり手下を抱えていたが、最近何か抗争でもあったのか、その人数を減らしたらしい。
 それから、密造酒工場を3つ持っている酒問屋のアコギという男がいる。ゴリアテ一家内で密造酒販売を一手に担っている男だ。密造酒を酒場に卸しては儲けている。自身も酒場等飲食店を幾つか持っていて手広くやっているようだ。こいつは守銭奴で、とにかく金が稼げれば上が誰でも関係ないだろう。
 そして、最後に私、鬼面御前。私はハシシの取引が仕事だ。各地区でハシシの売人達を組織し、彼等にハシシを卸す。ハシシを持ちこんでくるウルド商人達との交渉なども担当している。ゴリアテ一家の概要は大まかにこんなところだ」
 話を聞いて、一党は方針を定めた。
 まずは自分達がゴリアテ一家の新しい頭領であることを認めさせる。そのために、幹部達を集めて会議を開く。幹部会の招集というわけだ。場所と日時は、ここ『桃源郷』に明日でよかろう。ここへ全員来い! と呼びつけるのだ。それに従わないものは一党を頭領として認めていないということで滅ぼす。なんか大体こんな感じだったと思う。もしかしたら全然違ったかも。
「……幹部会の招集については、各幹部に使者を送っておこう。もっとも始末屋達の元締めであるクビナシには直接は連絡がとれないが……」
 鬼面御前が幹部会の手筈を整えるという。
 じゃあ、一旦自分達の宿屋に戻ろうぜ、となった一党。桃源郷から出てしばらくすると、下手くそな尾行がついていることに気付く。早速、その尾行者を捕えるのだった。
 気弱そうなやせ男である。
「お、俺はただ頼まれただけなんだよ。あんたらどこへ行くのかついてけって」
「誰がお前に頼んだんだ?」
「な、名前は知らねえ」
「よし、そいつのところへ案内しろ」
「わ、わかった。こっちでげす」
 と、やせ男は路地裏を進んでいく。一党もそれに従って路地の奥へ。
 そこは細長い路地だった。その路地の先からゆらりと人影が2つ。しかも、ガラガラと音を立てて、棘だらけのバリケードが彼等の後ろで道を遮る。塞がれてしまった。そして、一党の背後からは、
「よーし、よくやった。うまく誘いこんだな」
 人相の悪い連中が退路を断っているではないか。挟み撃ちのような格好。
 やせ男はおろおろと、
「え、こ、こりゃどういうことで?」
「こいつらの始末は先生の用意したこの化け物どもがやってくれる。お前はもう用済みだ」
「そ、そんな、こいつらをここに連れて来いって、ただそれだけの仕事だって話じゃあ……」
「一緒に死ね」
 その声に呼応したのか、前方の2つの人影がローブをはぎ取る。
 そこに立っていたのは、どこか左右非対称な人型の何かだった。体についた肉は渦を巻いたようになっていて、見る者を不安にさせる。その表情は人にあらず。生きている者への悪意に満ちた怪物。異形の者どもであった。
 どうやら一党はまんまと誘いこまれてしまったようだ。前に異形、後ろには、
「あ、あいつらボエーさんの手下なんです! 俺はあいつらに言われたからやっただけなんですよ! 旦那がた、助けてください!」
「余計なこと言うんじゃねえ!」
 やせ男が言うにはボエーの手の者らしい。5人ほどもいるだろうか。もし異形の者どもと戦うことを拒むのならば、このボエーの手下達を突破して逃げねばならない。といったところで戦闘開始。
 さっそく異形のもの、ファウルスポーン達が力を振るう。
 ファウルスポーンのおそましきものが体内から肉色の長虫を撃ちだした。それは過たず、やせ男の額に噛み付き潜り込む。それで幻惑状態となったやせ男、狂気の囁き声を耳許で呟かれ、目鼻口から血を噴き出して狂死した。
 さらにファウルスポーンの切り裂き魔がしたしたと近付いてくる。その4本の腕には骨の短刀が握られていた。自らの骨を削りだしでもしたのだろうか。この切り裂き魔、戦術的優位を得ている相手に対して+2D6の追加ダメージを与えてくる。で、それが4回攻撃とかしてくるのだ。
 しかもさらにこいつらひどいことに、
「よし、マークした。ファイターの能力で、もし離れようとしたらすかさず機会攻撃」
「じゃあ、瞬間移動。もしくは機動防御で機会攻撃された時のACに+5修正がつきます」
 機会攻撃受けずに移動したりするのだ。ファイターのマーク能力を半減させるような特徴を持っている。しかも、そうやって移動しては一党を挟撃してくるし。
 ファウルスポーン達は的確に弱そうな相手を狙ってくる。
 だが、この日はファウルスポーン達のサイの目が非常に悪かった。そうやって外しまくっている間に一党はダメージを積み重ねていく。その醜態に業を煮やしたのか。一党の背後で退路を断っていたボエーの手下連中が突っ込んできた。


 でも何とか勝ちました。


 良く覚えてないけど、一党はファウルスポーン達を葬りボエーの手下を2人拘束することに成功する。
 で、ボエーの手下にさあ尋問といったところで、突然ボエー本人が手下連れて雪崩れ込んできたではないか。そして、手下2人を有無を言わさず殺してしまう。
「まったく、こいつら勝手なことしやがって! 申し訳ねえですね、新しい頭領。これこの通り、落とし前はつけさせましたので」
 手下2人の首を差し出すボエー。手打ち、ということにしたいらしい。ウルヴェントはそれを快く受け入れ、
「うむ、では明日の幹部会にはシャイアーンを連れてこいよ」
 と度量の大きいところを見せるのだった。
 おお、さすが新頭領だ、とボエー達が背を向けて帰ろうとしたところ、
「悪は許さん!」
 ボエーめがけてケイオスボルト。
 こんなもんで敵対した連中を許すような甘い生き方はしてないのであった。
 結局、ボエーの用心棒や兵隊は倒したもののボエー本人は護衛と早々に退却してしまう。
 取り逃がした格好だが、これでゴリアテ一家内の敵がはっきりしたので良いのである。
 というわけで、次回に続く。