片目のサダームからゴリアテ一家を譲り受けた一党。
 されど、ゴリアテ一家内には一党を快く思わない勢力がいることが判明する。
 その敵対勢力に対して一党はいかように対応すべきか。
 懐柔か。せん滅か。
 一党の懐の深さが試される時が来た。


 のだが、この日のセッションでは一党のリーダー的ポジションのウルヴェントが御休みであった。
 更に今回から一党にゴライアスのウォーデンであるアイスマンが加わる。
 おそらく、アイスマンはスプリンター先生に育てられた孤児の1人であると思われる。一党の他のメンバーと同じだ。だから、一党は旧交を温め合った。
「やあ、久しぶり!」
「いたんだ!」
「実は最初からいた」
 今まで一言も喋らず戦闘にも参加しなかっただけで、ずっと一党と同行していたことが判明。
 アイスマンは黙して語らず、巌のような男である。


 さて、一党はゴリアテ一家の幹部連中を試すために、幹部会を開くことを決めた。一党の呼びかけに素直に従えば生、欠席したら死である。
 早速、幹部会を開く旨、知らせる使者が送りだされる。
「知りませんでした、で死んじゃうのも可哀想だからね」
 一党はこういう心配りもできる細やかな神経の持ち主である。
「幹部会のもてなしに、妙に苦い酒を用意しておこう」
 一党はこういう心配りもできる細やかな神経の持ち主である。
 呼びかけに素直に従えば死、欠席しても死である。
 しかし、と一党は考える。今この場に居ないリーダー、ウルヴェントならこの状況でどうするであろうか? リーダー不在の今、一党の行動を決めてしまってよいものか?
「明日のために暴れるべきか、ゴキブリホイホイに入ってくるのを待つか……?」
 一党は悩んだ。そして、1つの解決法を見出す。
 ウルヴェントならどうするか考えて、その逆をやるべき。それこそが一党の指針となるであろう。というわけで、ウルヴェントなら絶対やらないことを選択してみる。
「よし、田舎に帰ろう」
「就農しに帰らなきゃ」
「実は今日、女王スリクリンの誕生日だからお祝いしに帰らなきゃいけないんだ」
 などとグダグダしていると、ハシシの売人達が転がり込んできた。
 説明し忘れていたが、一党は鬼面御前のいる酒場『桃源郷』にてグダグダしていた。そこへ彼女の配下であるハシシの売人達が駆けこんできたという状況だ。
 売人達は口々に訴える。
「街中がピリピリしてて、商売がやり辛いったらねえです」
「何があったのか、シャイアーンの兵隊達が武器持ってシマの中をうろつき回ってます」
「殺気立ってて危ねえ。とてもハシシなんか捌けねえ」
 そのような報告を受けて、座視する一党ではない。早速、そのシャイアーンの手下がうろついているシマへと案内するよう命ずる。ハシシの売人は気乗りしない様子で、
「案内しますけど、気をつけてくだせえ」
「お前がな」
 一党は街へと繰り出した。スラム街へと向かう。すぐにシャイアーンの手下らしいチンピラ連中と目が合った。チンピラ達、目を見張り、
「やべえ、本当に来やがった!」
 どうやら一党のことをご存じの様子。
「ならば、そのチンピラ連中を呼び寄せる」
 と、イモコが威圧でいうことを聞かせようとした。
 威圧のロールの結果は7。
 唾を吐きかけられるレベル。
「じゃあ、一緒に」
 ワンコがイモコに唾を吐きかけた。
「凹むなよ!」
 ワンコがイモコを慰めた。そして、
「舐められるのもヤバいし、殴っとく? とりあえず威嚇だけしとくか。顔は覚えたからな! ばーかばーか!」
 チンピラ達を威嚇した。それでチンピラ連中の冷え切った心もほんのり温かくなったのか、
「こんな奴らが、本当に殴りこみに来たのか?」
 一党が攻めてきたと思っているようだ。どうしてそうなるのか。
「ボエーの所の兵隊がお前らにやられたって聞いたぜ!」
 前回の、ボエーを取り逃がした遭遇が原因らしい。
 ボエーが一党の無道ぶりをシャイアーン一派に吹聴し、警戒を呼び掛けているのだという。
 ちなみにこのチンピラ達はボエーの配下ではないようだ。ノビーという男に従っているという。ボエーとノビー、どちらもシャイアーンの兵隊達を取りまとめる子分である。
 一党は誤解を解こうと試みた。
「あれはちょっとした手違いだ」
「不幸な出来事だった」
「それに比べて、君達は運がいい」
「出会った瞬間、死んでしまうこともある。ここで死んでもおかしくなかった」
「運がいいのは今日だけだぞ! 明日どうなっても知らないからな」
 自然な流れで脅迫。そして自然な流れで、
「ノビーに伝えるといい。今日中に部下の非礼を詫びに来るように。来なければ君らが死ぬ」
 上から目線。
 ともかく、シャイアーンの手下達は一党が自分達を襲ってくると思って警戒しているということだった。
「期待されてるならやらなくちゃなー。なりたい自分より、期待されてる自分にならなくちゃ」
 ワンコが前向きなことを言った。というわけで、
「こいつらが後ろ向いたら斬らなきゃ。ウルヴェント流になんかやっとく?」
 ウルヴェント流とは喧嘩を売りつけること(嫌だと言っても高額で買い取らせる)と同義である。
 と、チンピラ達が急に目配せしだすではないか。怪しい。
 はっと気付けば、一党はシャイアーンの兵隊達に囲まれている。その中から、ずい、と出てきた男こそ、
「オレはシャイアーンさんのところのノビーってもんです。あんたら、ここへ何しに来たんです? 揉め事を起こそうって気ですかい?」
「お前がノビーか」
「早速詫びに来るとは殊勝な奴」
「その態度に免じて警告しておいてやる。お前のボスのシャイアーンに言っとけ。明日の幹部会には出席するようにな」
 一党の寛大な申し出。だが、ノビーは首を横に振るのだ。
「シャイアーンさんは、たぶん行きませんよ」
「なんで? ていうか、お前勝手に上の気持ちを推し量るようなことしていいの?」
「シャイアーンさんも幹部会を開くからです」
 どうやら、一党が幹部会を開くのに対抗して、シャイアーンも自ら幹部達を招集したのだという。しかも、一党が開く幹部会にぶつけるようにして。これで、幹部達がどちらに付くのか見極めようという腹らしい。もちろん、自分の方の幹部会に出席しない幹部は殺すつもりであろう。
 そういうノビーの表情は厳しい。
「最近のシャイアーンさんはおかしいんでさあ。正直、今のシャイアーンさんにはついていけねえです」
「奇遇だな! 俺達もウルヴェントにはついていけないんだよ!」
 仲良くなった。
 仲良くなったついでに、黄金のイニックス亭3号店で待ち合わせることにする。ノビーも色々、上司の愚痴を言いたいらしい。
「とにかく、シャイアーンさんの周りでおかしな死に方する奴が多くて……目、鼻、口、から血を噴き出して死ぬとか、そんなのばっかりです。噂じゃ化け物が殺してるって話もありやして……」
 一党はその死に様から、彼方の領域からの来訪者、異形系の怪物達のことを思い浮かべるのだった。
「なんか、シャイアーンはほっといても死んじゃうかも」
「異形に取り憑かれてるだろ」
 そういった詳しい話は黄金のイニックス亭で、とノビーは言う。流石に、道端で一党と話をしていてはシャイアーンにどう思われるかわからない、とのこと。
 というわけでその日の夜、一党は待ち合わせた通りにノビーと再会する。
 ノビーは開口一番言うのだ。
「シャイアーンさんは恐ろしい人です」
「こっちの方が恐ろしいって!」
「この人すごいんだから!」
 一党はウルヴェントをほめそやした。
 ノビーが話を続ける。
「シャイアーンさんも元はここまでじゃなかった。今みたいになったのは、『先生』が出入りするようになってからなんです」
「『先生』って?」
「最近、シャイアーンさんに取り入って色々助言してる奴でして。素性の知れねえ奴です。噂じゃ人間じゃないらしいです」
「人間じゃないなら、パンダとか犬とか金魚じゃねえの?」
 一党はノビーの懐柔を試みた。
「お前もこのままシャイアーンの傍に居たら危ないよ?」
「このままだとワンちゃんの餌になってバクムシャーってされちゃう」
「助かりたかったら、抜ければいいじゃん」
 というわけで交渉のロールも良かったりしたので、ノビーは以後、シャイアーンの元に居ながら一党の手伝いをすることを約した。有り体にいえば、情報提供・スパイである。
 さてここで、
「ウルヴェントだったら先手を打つよね!」
「明日の幹部会を待つとか、状況に受身ではないよね。むしろ、自分から状況作ろうとするよね?」
 と、一党はウルヴェント流を極めんと欲す。
「シャイアーンに会いに行こう!」
 一党は思い立ったが吉日とばかりにノビーを見つめ、
「この人の首持っていこう」
「『先生』の晩御飯になりに来たぞ! ノビーが」
 『先生』とやらの暗殺を目論む一党。けれど、シャイアーンの居場所がわからないのだった。ノビーも知らぬという。シャイアーンは用心深く、毎日居場所を変えているらしい。
 では、仕方がない。
「シャイアーンは『先生』とできててホモらしい、って他の幹部に教えて仲間になってもらうのはどうかな」
 次善の策として、一党は他の幹部の取り込みを試みた。
 誰に働きかけるべきか。
「最後は経済戦争ですよ」
 ゴライアス・ウォーデンのアイスマンがメガネを光らせる。どうやら一党はインテリヤクザを仲間に加えたようだ。
 という訳で、幹部の中で金を持っていそうな奴にウルヴェント流しに行くことにする。狙うは密造酒作りをしているアコギという男。幹部の中で一番経済力がありそうだ。
 一党はアコギの持っている密造酒工場へと乗り込んだ。
「頼もうー。ここの主人のアコギを出せ!」
「あいすいません、主人は今仕事中で、ぎゃー」
 でてきた工場のおっさんを問答無用。穏便に、とか無し。
「だって、穏便なやり方だと時間がかかりますが、結果を求められているのは明日なので」
 アイスマンは仕事ができるインテリヤクザです。
 かわいそうなおっさんに一党は迫るのだった。
「アコギを出せって言ってんだよ」
「アコギさんに何の用ですか!?」
「何の用だろう?」
「選択肢は2つある。殺すか、死なすか」
 あまりの酷さに、ここで一党のアライメントは何だろう? と議論になった。
「ていうか、アライメントとか聞いたこと無い」
 何ソレ? 美味しいの? 状態。
「誰かのために戦う、とか無いもんなー」
「俺達って友達とかいないしね」
「正確には、友達になれない。奴隷しかいない」
 一党の人間関係は大抵、片務的である。自分達以外は全部従属。
「神様とか何を信仰してるんだ、俺ら?」
 ダークサン世界では神への信仰が廃れているという設定なので、
「自分の絶望全て神の所為」
「こういう性格なのも神の所為」
 しまった、この人達クズだ。
 一党は幹部であるアコギを出せ、とかわいそうなおっさんに迫る。が、ここにはいないの一点張り。
「ていうか、本当に何しに来たの?」
「何か流れで殴り込みに」
「ごめん、一日毎パワー使いに来たわ」
 勿体ないからね。
 なんかこのまま手ぶらで帰るのもアレなので、一党はこの密造酒工場を接収することにした。
「じゃあ、このおっさんに工場の管理を任せる」
 かわいそうなおっさんに無理やりやらせるのだった。
「わたしはただ玄関対応に出ただけなのに、なんでこんな酷いことになってんだ」
「人生一回だけだからな。長いか短いか決めるのはお前次第だ」
 ワンコがもっともらしいことを言った。


 翌日。
 いよいよ幹部会の日を迎える。
 一党は鬼面御前の酒場『桃源郷』にて幹部達を待った。
 だが、芳しくないのだ。
 盗賊達を仕切っている幹部セアブラは本人ではなく、代理人を寄こしていた。
「主人は多忙で参ることが適いません。また、主人はシャイアーンの方の幹部会にもやはり代理人を出席させております」
 代理人は言った。一党とシャイアーンを天秤にかけているといったところか。
 娼館の主人、マダム・トカレフは急病のため欠席するという。
 始末屋達の元締めクビナシからは、なしの礫。一党とシャイアーン、どちらも無視した格好だ。
 人身売買をやっているカナリという幹部はシャイアーンの幹部会に出席したという。
 さらに、密造酒作りのアコギもシャイアーン側についた。
 一党の幹部会に出席したのは鬼面御前と、もう1人。賭場を仕切っているドツボという男が、
「た、助けてください、頭領!」
 慌てて駆けこんできただけである。
「うちの賭場がシャイアーンの子分のボエーに襲われてるんです! このままじゃ賭場の連中がみんなやられちまう!」
 一党の幹部会に参加した者への見せしめということか。
「ここでドツボを助けてやれば、ドツボは貴様等に忠実な味方になるだろう」
 鬼面御前の言葉もあって、一党はドツボの賭場救出へ向かう。
 賭場ではボエーとその手下達が絶賛狼藉中であった。しかもボエー、一党がやってくるのを見るなり、
「バカめ! こっちに来やがって! 今頃、『桃源郷』は楽しいことになってるだろうよ!」
 一党をあざ笑うではないか。どういうことかと問い質せば、
「別働隊が鬼面御前を殺しに行ってるんだよ。具体的に言うと、5ラウンド以内に俺達を倒さなければ、『桃源郷』が大変なことになるぜ!」
 ボエー達は結構な人数である。
「ムリだよ」
 一党は諦めた。
「そこは一日毎パワーやアクションポイントを使って頑張るんだな!」
 ボエーのアドバイスに一党は感じ入る。
「もしかして、いい奴なのか、こいつ?」
「惚れた」
 殺すけど。
 実際、ボエーとその手下達をギリギリ5ラウンド以内でせん滅。ボエーの断末魔が賭場に響くのだった。
「ボエーが死んで、うちの店も安泰でさあ!」
 賭場の幹部ドツボが感謝の言葉を述べてきた。だが、それどころではない。ボエーの言葉が本当なら、『桃源郷』の鬼面御前が危険である。
 一党はすぐさま取って返した。
 そして、ボエーの言葉通りだったことを知る。『桃源郷』に敵が押し入っていた。今にも鬼面御前やその護衛に襲いかからんとしているではないか。もう少し遅かったら全て手遅れになっていたところ。
「ボエーの生首を投げ込む。おら、おめえらの仲間は失敗したぞ! って先制威嚇」
 なんか持ってきてたらしい。
 投げ込まれたボエーの生首を見て襲撃者達は、
「ガブガブガブー、って食べちゃった」
「あ、そういう奴らが来てんだ?」
 敵が異形の化け物どもであることが判明しつつ次回へ続く。