. 武と名誉を重んじるドラゴンボーンの戦士へカチンであるが、一党は今、色々あってデーモンとデビルの支配する街にいる。そこは危険な街である。
 そこには唯一安全だとされている魔法学院がある。結界が張られ、良き師が良き学び手を導いているという。でも、実際の所そうでもなかった。
 ともかく、一党はそこに逗留している。
 と、そこの校長から相談事を持ちかけられた。
 何でも、生徒の1人が学院から飛び出して行ってしまったのだという。
「あの子は皆様方の勇気ある行動に感化されたようです。自分も悪魔達など恐れぬ、悪魔達の陰謀を砕く力とならん、と飛び出して行ってしまいました」
 英雄志願の少年といったところか。
「この近くに悪魔が屯しているという東屋があります。彼は、そこの悪魔達の企みを探ってくる、と言い残して行きました。どうか、彼を連れ戻してくれませんか」
 なんで?
「よし、では一緒に参ろうではないか」
 高貴なるエラドリンがいつものように持ちかける。
「いえ、私ではあそこにいる悪魔達にはとても歯が立ちませぬ。皆様方にお願いするほかないのです」
「いや、あんたで歯が立たないものを俺達でどうこうできるわけないじゃん!」
 前回のセッションにて、校長先生は1人でデーモンの巣に特攻し生き残っているのだ。吾等は校長先生の通った後(屍が累々)を進んだりして大分楽だった。
 そこで校長先生、秘密を打ち明けるように、
「実は私のデータが今のマスターの手元に無いので、今の私は一撃で死ぬ雑魚扱いなのです」
 勝手な設定すんな。
「という訳で一緒に行くわけには参りません」
「大丈夫! この前のセッションでちらっと見たけど、そのときの校長先生のデータ、レベル22の○○○○のところを参照してたよ!」
 高貴なるエラドリンが大変なことを言い出すのだった。それネタばれではないのか。
「じゃあ、レベル22○○○○の雑魚で」
 どうあっても校長先生は一撃で死ぬという。そこは譲れないところであるようだった。
 今更ながら、これ書いてよかったんだろうかという思いが尽きない。でもきっと伏字にしているから大丈夫であろう。


 仕方ないのでその生徒を助けにいってやることとする。
「報酬は?」
 敬虔なるグエドベが親切に尋ねてあげた。無償で吾等善なる一党に働いてもらっては校長先生も気が引けるであろう、それが元で心労のためやせ衰え死に至るかもしれぬ。無私公平で知らるる善なる者としてそれは避けねば、というグエドベの心憎い配慮である。
 もちろん、その意は校長先生に通ず。グエドベの深い配慮に声を震わせながら、
「+2フレイミング・モールの魔力をロングソードに移し替えてあげたじゃないか。それで」
 前回のセッションで一党は+2フレイミング・モールを手に入れたのであるが、それを高貴なるエラドリンが使えるようにロングソードへ移し替えようということになったのである。それができるのは校長先生だけだったのだ。レベルの関係で。
 校長先生は土蔵の奥から小汚いロングソードを引っ張り出し、それに+2フレイミング・モールの魔力を移し替えた。こうしてできあがったのがかの名刀、フレイミング小汚いロングソード+2である。
「で、魔力の無くなったモールはどうする?」
 グエドベの問いに高貴なるエラドリンは言ったものだ。
「僧侶であるグエドベが持っとけば? メイスよりはるかに悪っぽいし」
 高貴なるエラドリンにとってセイハニーンはどのような神に見えているのか、議論の余地があろう。


 更に一党は校長先生に尋ねる。
「ところでその生徒の名は? 例のあいつ?」
「例のあいつじゃない奴」
 誰だ。
「じゃあ、ヘカチンの弟ってことでそいつの名前ポ○チンにしよう! ポ○チン! ポ○チン!」
 一党がそう声高に言うので、校長先生厳かに、
「じゃあ、それでいいよ。という訳でポ○チンが向かった東屋は……」
 いい年した大人がポ○チンポ○チン大合唱するの図。


 そんな名前ではないということで双方の同意を得た。
 こうして話が纏まったので、一党は生徒が向かったという東屋へ急ぐ。
 ここで、止せばいいのに吾は余計な提案をするのだった。
「今回は、今日来ていない人のキャラクターとか使わないで、自分のキャラ1人だけを使って戦ってみない?」
 自キャラ以外のキャラを別に受け持つと、どのパワー・どの能力を使えばいいか考えこむことが多く、プレイヤーの負担が大きいのである。自キャラだけに集中してプレイした方が内容の濃いものになるであろう。
 というのは建前であって、実際の所はレベルアップした吾の無双っぷりを見せたかったのである。パーティ人数が少なければそれだけ目立つ。吾がたった1人で大勢の敵をなぎ倒すところを見て見て! てなものだ。
 ここはヘカチンさん1人で超カッコいいところを見せるチャンスであろう。
『出たー! さすがヘカチンさんだ!』
『カッコイイ!』
『素敵! 抱いて!』
 はっはっはありがとうありがとう市民諸君、となることを期待しての提案であった。
 そういったわけで、今回戦闘に参加するのは高貴なるエラドリンと敬虔なるグエドベ、そしてヘカチンであった。
 ペンテルとスプマンテは一党がピンチになったら都合よく即登場する予定である。


 さて、件の東屋へと辿り着く善なる一党。
 と、東屋から苦痛の叫びが漏れてくるではないか。加えて、下卑た笑い声も。
 よくよく見れば東屋内に幾つもの人影が見える。ローブをすっぽり被った者が2名中央に立ち、その周辺をヒャッハーな連中が取り囲んでいる。そのローブの男達のすぐ足もとには倒れた人影あった。その小柄な姿は、学院を抜け出した少年のそれに相違あるまい。少年は彼等に酷くいたぶられているようだ。
 そのローブの男の1人が吾等の姿に気付く。そして、僅かに覗く口元をにやりと歪めると、手にしたナイフを何のためらいもなく少年に深々と突き刺した。
 治療のロールをしてみた結果、3ラウンド以内に少年の容体を安定させなければ死ぬと判明。
 ぐずぐずしてはいられぬ。すぐにこの悪党どもを討ち倒して少年を救わねばならぬ。
「じゃあ、フリーアクションで話しかけよう。貴様等は何者だ」
 一刻の猶予を争う話し合いが始まる。
 高貴なるエラドリンの問いかけにローブの男がはらりと顔を見せる。それはどう見ても悪魔の血を引く者のそれであった。カンビオンという種族である。
 カンビオンは嘲笑う。
「くっくっく……今の内に惰眠をむさぼるがいい。間もなく、この地上に地獄が誕生するのだ! 九層地獄におわす大悪魔にして大貴族たるかのお方の目覚めは近い!」
「悪魔に傅く者は来世で報いを受けるぞ」
「貴様らこそ、この現世でレビストゥス様に帰依するがいい」
「よし、わかった。帰依してやるからまず貴様等は来世へ行け」
 話し合いになっているようでなってなかった。
「お互い、言いたいこと言ってるだけだよね? 自分の持ってるボールを投げつけあってるだけだよね?」
 敬虔なるグエドベが、会話のキャッチボール不成立を認定した。
 こうして実に生産的な話し合いが終わって、生産的な殺し合いへと移行す。


 早速吾の秘技『来たな馬鹿ども』が炸裂す。近くの敵達を自分の周囲に引き寄せて、一気に切り払うのだ。カンビオン以外の連中は下っ端だったらしく、一撃である。さらにマイナーアクションで火を吹いて焼く。
 見て見て! 僕ちんヘカチン強いでしょ?
「これヘカチン1人いればいいんじゃん?」
 高貴なるエラドリンと敬虔なるグエドベのフィギュアがマップ上からマップ外へと遠ざかっていくのであった。
「ここはヘカチンに任せた」
 さようなら。


 というようなことはなかったのである。なぜなら、吾等は絆で結ばれた一党であるからだ。まさか仲間を置いて帰っちゃうとかあるわけがない。あったとしても3回に2回くらいだ。今回は3回に1回の方だったのでよかったよかった。
 さて、カンビオン2名は雑魚ではなく、というより精鋭であってHPが高いのであった。火力が高いのであった。それに比して吾は火力が低いのであった。高貴なるエラドリンの火力の高さは相変わらずだが、スプマンテ&ペンテルがいない分、やはりいつもより格段にパーティの火力は下がっているのであった。ダメージが全然いかないのであった。
 結果、ものすごーく戦闘終了まで時間がかかった。
 3ラウンド以内に少年を助けないといけなかったので。グエドベがヒーリングワードで少年を回復させたのだが、その少年を戦闘に巻き込まない所へ移動させるのに注意しなければならなかったり、それにも時間がかかった。5人で戦って3ラウンド以内に敵を全滅させていればもっと早く終わってたのに。やっぱり1つのチームとして機能しているパーティを、わざわざ人数減らして戦ってみるとか、誰も得しないのであった。
 で、この時点で改めてペンテルとスプマンテを加えた状態で先へ進めばいい物を、いやいやまだいけるっしょ? などと呑気なことをいう奴(なんかドラゴンボーンっぽかったよ)がいたため、そのまま進んでしまう。
 強く言いたいが、そんな主張をした責任者は糾弾されるべきである。パーティの負担、特に吾の被攻撃回数が増すことについて、是非責任を取っていただきたい。
 そして、世の中とはよくできたもので、この後その責任者は報いをしっかり受けるのであったが、それは後の話として、さて、助けた少年である。
 少年はこの東屋の地下にて悪魔や悪魔の崇拝者達が恐ろしい儀式を行っていることを告げるではないか。
 なんでも、九層地獄の階層の一つを統べるアーチデビル・レビストゥスの配下であり大貴族であるとあるデビルを呼び出そうとしているらしい。
 これは見過ごせぬ。
 吾等は悪魔達の企みを挫くべく、地下へと歩みを進めた。
 すると、地下は尋常ならざる冷気に包まれていた。石畳に霜が降り、氷のひび割れる音が地下室に木霊す。
 その凍てつく部屋で待ちかまえたるはフロストハウンド達の群れにティーフリングの欺き手2人であった。
 早速戦闘開始である。
 吾はまた呼び寄せて斬りはらったが、今度はそう簡単には倒せない。雑魚ではないのだから当然だ。敵の攻撃回数はまるまる残ったままなわけで、しかもスプマンテがいない分、攻撃が吾に集中する。
 そんなもん、当たらなければどうということは無いのである。
 ガンガン当たるのであった。敵のサイの目が酷過ぎる。ダメージロールも。こっちはアクションポイントに一日毎パワーまで使っているのにダメージロール1ばっかとか。死にそう。助けて。でも、人数が足りないのでエラドリンもグエドベも自分のことで手いっぱいなのであった。
 ……あれ? これ死ぬんじゃね?
 というところで時間が無くなってしまったので、今度はペンテル&スプマンテが何故か突然現れた状態で再開することを心に誓って次回に続く。