ある晩のこと。
 虫人間(スリクリン)のワンコ・オススメは親代わりでもある師に呼ばれた。
 師は天を仰ぎ、星星を見つめている。
「星が乱れておる」
 師は静かに呟いた。
「乱世の星を見定めねばならぬ。わかるか、ワンコ」
 師はワンコを諭すようだ。
「行くがよい、ワンコ。お前に先んじて我が弟子の何人かがすでに動いておる。お前も続くのだ。乱世を治めねばならぬ。そして、その乱世を統べる者とはお前達の中の誰かから現れるかもしれぬな」
「いや、それ、あんたがやればいいじゃん」
 もっともなことをワンコは言ったのだが、何が師の琴線に触れたのか、追い出されてしまうのだった。


 仕方なく、師の元を離れた弟子仲間達の跡を追うこととしたワンコ。
 ティールの街にて彼等が近くの鉱山へ向かったことを聞きつける。
「簡単に行方が判明するなんて、目立つんだね、あの人達は」
 ワンコは大いに納得して鉱山へと向かう。自然な展開であり、少しもおかしなところはない。
 途中、ガチムチの花園団と遭遇し、先行する弟子仲間達が鉱山の南鉱区に入ったと教えてもらった。これもまた全然不自然な展開ではない。
「よく考えると、勝手に拾っておいて勝手に捨てるなんてひどい親代わりだよね」
 などと師への思慕の念を新たにしつつ、鉱山南鉱区内を彷徨うワンコ。
 と、いかにも怪しげな遺跡を発見する。
 入口付近には原住生物ヒジュキンの死体が転がっており、ワンコはどう考えてもこの先に弟子仲間達がいるに違いないと確信するのだった。仲間達の得意技は押し込み強盗(殺害含む)だからだ。
 ヒジュキンの死骸は複数あり、そのうちの長老風のヒジュキンは真っ二つ、ではなくて頭を潰されている。
「真っ二つもいいけど、そろそろ潰してもいいかなーって思うようになったのかも」
 弟子仲間達の得物によるものとは異なる殺害方法を見て、ワンコは大変納得のいく回答を思いつき意気揚々。スキップ交じりに遺跡の奥へと入り込む。


 ワンコは遺跡の回廊を行くうちに、部屋へと行き当たった。その部屋には3人の人影がある。
 どうしようか? とりあえず火計をしよう。
 そう自問自答するワンコ。
 敵か味方かわからないときはまず火計。
「誰だ!?」
 部屋の中の3人が振り返ってきたので、ワンコも振り返る。別に誰もいない。脅かしやがるぜ。
 部屋の中の3人はワンコの弟子仲間ではなかった。見たことのないムル族の剣闘士が皮肉な笑いを浮かべている。ワンコも負けずに微笑みがえし。虫の笑顔は哺乳類には伝わりにくいものだ。お互いに愛が足りないのかもしれない。
「見かけない顔だな」
 ムル族の剣闘士はそう言ってきた。彼は虫人間の顔の区別をつけられるようだ。
「ははーん、わかったぞ。貴様、この先に進んでいる連中の仲間だな?」
「それ、どんな奴等?」
 ワンコの問いに、ムル族は応えない。
「運の悪い奴だ。俺達は……なんだっけ? ああ、そうだハートキャッチ陸戦隊だ。そして俺はその……なんだっけ? ハートキャッチ陸戦隊のグルク様よ。さっき、北鉱区で騒ぎがあったんでピーンと来たのさ。北鉱区の騒ぎは陽動で、本当の狙いは南鉱区にあるってな。そしたら、ビンゴよ! こんな遺跡が掘り返されてやがった。俺達は侵入者共の跡を追って遺跡に入り込んだ。するとヒジュキン共がこの奥には不吉な物がある、進んではならん、とうるせえこと言いやがるから皆ぶち殺してやったわ。わはは」
「自分でストーリーを進めるのが好きな奴だな」
 ワンコが率直な感想を述べる。そして、
「ところで、俺はハートキャッチとダチだぜ?」
 いけしゃあしゃあと嘘を吐いた。
 ムル族とその仲間達はワンコの言葉などに耳を貸さず、話し合う。
「別にこいつ殺すんじゃなくて、話聞いたらいいんじゃね?」
「うるせえ! 俺は血に飢えてるんだよ!」
 彼等の話し合いは、無慈悲な虐殺により最終的解決を目指すという方向でまとまりかけたようだ。ワンコ絶体絶命。


 風に乗ってキチキチと聞こえてくる声がある。
 それを聞いた一党ははっとした。
「この声は……ワンコ!」
「ワンコって誰だっけ?」
 全てに対して平等なる男、ウルヴェントは実に公平なことを言った。彼はワンコに限らず、誰に対しても等しく興味を持っていないのだ。
 でも、なんか仕方ないのでウルヴェント、イモコ、そしてザーマス師匠の3人はワンコの声のした方向へと急ぐのだった。なーんか助けに行かないといけない気がしたのだ。
 ちなみにどういうわけかムルの戦士ウィンストンはその場にいなかったので、戦闘に参加できなかった。彼は決してワンコを助けに行くのを面倒くさがったわけではない。お仕事は大事だという話だ。


 ワンコ絶体絶命の危機。そこへ雪崩れ込んできたのは頼もしき仲間達、ウルヴェント達一党であった。
「今助けるぞ!」
 一党は掛け声も勇ましく、安全な遠距離から魔法を撃ったり槍でツンツンする。その間に、ハートキャッチ陸戦隊は手近なワンコを集中攻撃。
 ワンコは死んだ。
 とても頼りになる仲間に恵まれて、ワンコも幸福な余生であった。
 いや、死んでなかったが意識を失い倒れた。
「今治療しても、どうせすぐまた攻撃されて倒されちゃうだろうからシカトするね!」
 笑顔でそういう戦闘指揮官イモコ。その体を水状に変化させ、敵の間をすり抜けて移動する。水のジェナシの遭遇毎パワーである。これによって有利な位置を占めようというのだ。
「……てことは、沸騰させたら霧人間になれる?」
「なれるよ。死ぬけど」
 一度試した。


 陸戦隊との死闘。なんだか陸戦隊の1人であるゴライアス族の女戦士が8レベルモンスタークラスらしく、異様に硬くて攻撃が当たらなかったりした。が、先にリーダー格のグルクを倒すことで、1人生き残った彼女を降伏せしめたのだった。
 別に降伏しないで戦闘続行してたら、彼女一人で一党を全滅できていたのではないか。
 そういう疑問も生じるわけだが、そこにはちゃんと理由があるのである。決して戦闘バランスに問題があったため、降伏させないとゲームが終わっちゃうとかそういうことではない。当然だ。
 ちゃんと伏線として、彼女はそもそも最初から戦うことにどうも乗り気ではなかったようだ。
 一党は、倒したグルク他陸戦隊メンバーの装備をはぎはぎしつつ(ボーンダガーとかウォーハンマーを入手)ゴライアスの女戦士を尋問する。
「ハートキャッチには恩義はない。恩義はないが何かがあって、何かがある。従わざるを得ないのだ」
 そう言う。何かがあって何かがある、ということであるから何か理由があるようだが、その何かとは何か。
 そこで閃いたのかウルヴェント、ゴライアスの女戦士の装備もはぎ取り丸裸にする。そして曰く、
「ここまでさらけ出したんだから、全部事情を話すべき。全裸である→全てをさらけ出している→秘密など持ち得ない。見事な三段論法だ」
「それは三段あるのか?」
「論法ではなく実力行使ではないか?」
「これが通用するなら、今度から捕虜を捕えた時は全裸にすれば良いという画期的話法である」
 といった有識者からの意見もあったが賛同する意見のみ抽出した結果、ゴライアスの女戦士は深く感じ入り、滔々と語りだすのであった。やはり魅力が高いとスムーズに事が運ぶ。
「実は母親が病気で、その薬の借金のため、ハートキャッチの元で働かされているのだ」
「じゃあ医者になればいいじゃん」
 病気なんです→治せばいいじゃん
 お腹がすいてるんです→食べればいいじゃん
 死にそうなんです→生きればいいじゃん
 ウルヴェントのざっくりした解決法に、一同目から鱗が落ちるのだった。
「お前らは何者なのだ?」
 逆にゴライアスの女戦士から問いかけられて、ウルヴェントは我が意を得たりとばかり、
「通りすがりの冒険者さ!」
 かっこいいのかもしれない。
 何だかよくわからないが、こうしてゴライアスの女戦士は一党と同道することとなった。
 色々殺しちゃったけど愛情表現、ということで彼女には納得してもらう。一党は捨てられていたから愛情がわからないのだ。とにかく悪いようにはしない、死ぬまでは。という説得でゴライアスの女戦士を一時的な仲間としたのである。
 事情を更に聞けば彼女には兄がおり、ティールの街でヒジュキン達とつるんでいるとのこと。困った奴で母親の薬代も稼がないでいるという。
「知ってる知ってる、そいつ知り合い」
 一党はそのゴライアスに心当たりがあった。けれど、そいつの名前を聞くのを忘れていたため確認できない。
「確か、額に天下一って彫り物してたよ」
「そいつだ」
 適当なこと言ったら、それで合ってたみたいで何よりだ。


 とりあえず、ここで遺跡から脱出することもできたのだが、奥へと進む。何かダンジョン全部クリアしないと気が済まない所存である。
 パルマス・ソイアンと書かれた石碑があったりしたようだが何だかよく分からない。ウル・アスラの部下の名ではないかということだが、ウル・アスラって何だ。走り書きでメモしているだけなので、細部まで思い出せない。
 とにかくそういうのがあって、気付いたら骸骨の護衛兵&ゾンビが湧いている部屋にいた。アンデッド達は床に彫られた蛇の模様の上で恍惚としているようだ。
 それを見たザーマス師匠、重々しく、
「……禍々しいものを感じる」
「我々から?」
 さっさと皆殺しにして先へと進むこととした。
 床に散らばっている70GPを拾い集め、祭壇からヒーリングポーションを1本かっぱらう。


 扉の先から生臭い匂いが漂ってきた。さらに肌で感じるじめじめとした湿気。
 一党が扉を開けると、そこはキノコの部屋であった。巨大なキノコが片隅にそびえている。さらに部屋の中央には穴があり、その端には下へと続くツルが垂れさがっていた。これは地下の隠しワールドへの道であろう。行けばコインが山ほどあって1アップだ。てれっててれって、う!
 D&Dの基本、火で燃やすこととする。絶対このキノコ動くし。
 予想通り、マイコニドであって、一党はそれを危なげなく掃討した。
 あとは地下の隠しワールドで、コインをトィントィントィンとかき集めるだけである。
「てれっててれって!」
 テンション上がったイモコが土管の上でしゃがんで地下ワールドへ行こうとする。と、何ということであろうか。垂れ下がっていたツルがイモコを鞭打つではないか。不意打ちだ。
「わー」
 しかも落下。大けが。1人で先行していたイモコを助ける者は誰もいない。
「何か1人でとても楽しげに行ったから……」
「超楽しそうだったよね」
 最早思い出を語る口調であったという。
 一党は人食いツタに攻撃を集中して倒し、部屋の中から100GPにヒーリングポーションを3本、それに赤い粘土製の壺を見つけ出す。
 壺は封がされ、振ればからからと音がする。一体これは何であるのか。その正体はわからない。もしかして、その後封を開けたんじゃないかという気もするが、そこらへんの記憶がすっぽり抜け落ちているので、結局中身は不明である。
 なんとなくだが、壺の中身はドラゴンスレイヤー+100だったような気がした。
 ところで、
「……そろそろ穴から出してくれませんか?」
「いや、いいよ」
 ツルを切り落とされて穴から出られなくなったイモコは上にそう呼びかけたのだが、つれない答えであったという。


 いよいよ最後の部屋に辿り着く。
 そこは巨大蛇シルクワームが巣食う部屋であった。しかも大量の鬼火が漂い、剣呑である。ただ、一党が部屋内に入っても、今のところ襲いかかってくる様子はない。
 その部屋の真ん中には王冠の欠片があって、その周りは堀のようになっていた。深さは3メートルほどか。あれが、ウンチャラクラウンの一部であろう。
 確か部屋内はそんな配置だったと思うが、違ってても知らない。
 モンスター知識判定の結果、魚屋さんとは関係ないことが判明した。ここまでわかれば勝利したも同然である。
 一党は二手に分かれ、一方が王冠の欠片に手をかける。もう一方は、シルクワームや鬼火が動き出した際に盾となれるような位置へとついた。と、シルクワームや鬼火は一党が王冠に手をかけるのに呼応するように襲いかかってくるではないか。
 虫人間のワンコがその足の多さを生かして、複数の鬼火を一度に撃破。
 遅れてきていたウィンストンはシルクワームと対峙する。と、ウィンストンの斧がシルクワームの鱗に叩きつけられた瞬間、酸の血液が噴出してウィンストンを焼くではないか。シルクワームは攻撃してきた相手にダメージを与える小賢しい能力を備えているようであった。
 でも、今思い返してみるとこちらの攻撃が当たらなくても、攻撃してしまえば反撃が来てたような気がするので酸の血液とかじゃなくて、何かそういうオーラか何かだったかもしれない。マスターの説明をちゃんと聞いてなかったからわからん。
 とにかく、近距離で攻撃すると反撃を食らうという能力だったのは確かだ。
 そこでウルヴェントは遠距離から魔法で攻撃、イモコも距離を取って槍から弓(だか何だかわからないけど変な飛び道具。ダークサンの武器は訳分からなくて困る)に持ち替えて攻撃する。
 ところがシルクワームも変なパワーを使う。どういう理屈だかよくわからないが、爆発範囲5以内の敵を自分の隣に引き寄せる、とかいうパワーだったか。お陰でイモコやゴライアスの女戦士もシルクワームに接敵してしまった。
 近接攻撃したらこちらが洒落にならないダメージを食らうし、どうしたら良いのか。
「NPCならダメージ食らってもいいや。ゴライアスの女戦士にコマンダーズストライクで近接攻撃させる。まだ生きてる? じゃ、アクションポイント使ってもう一回攻撃させる」
 綺麗な手をしたイモコはゴライアスの女戦士に指示を出し、連続で攻撃させた。
 ほんとは槍を捨てて弓に持ち替えていたため、イモコはコマンダーズストライクできないんじゃないかとその時から思っていたのだがわざと黙っておいた。沈黙は金という。ここら辺の武器の持ち変えの処理が何だか曖昧になるから、遠距離武器とか使いたくないのだ。
 そして最後はザーマス師匠がシルクワームに止めを刺して戦闘終了。全部NPCにやらせるパーティである。
 こうして一党は王冠の欠片を手に入れめでたしめでたし。穴の底から3245GPも回収したし、豊かな老後を送れるであろう。


 と、思ったら王冠を手にした瞬間に入口の扉が閉まり、ざあざあと水が流れ込んできたではないか。どうやら王冠を手にしたら、この遺跡は水没するようにできていたらしい。どういう仕掛けだ。そして、そんな仕掛けに何の意味があるのか。何を考えてこんな遺跡作ったのか。作ってるとき、止める奴はいなかったのか。
 そんな疑問も洗い流すように流れ込み続ける水。このままでは溺れ死ぬ。
 一党は技能チャレンジで逃げ道を探す、という風にしたいところであったが(皆でできるし何より経験値入るし)、単に知覚のチェック一本振りで逃げ道を発見した。
 部屋の隅からどこかへ水が流れていくようであり、そこから逃げられそうである。
 一党は素早くその隅を突き崩し、そこにあった小道を急ぐのだった。


 一党は無事外へ逃れることができた。
 しかし、一難去ってまた一難。
「よく来たな」
 そこにはハートキャッチ様と残りの陸戦隊が待ちうけていたではないか。
 それも当然で、陸戦隊のグルクとかが戻ってこないならハートキャッチ側も不審に思って警戒しているであろうし、ゾンビの残骸等が南鉱区に置きっ放しであったから、この付近で何かあったなと確信を持たれるのも当り前である。
 そんな確信があれば、捜索にも本腰を入れようというもの。いくら偽装しようが遺跡が見つかるのも時間の問題であった。
 つまり、待ち伏せされるべくして待ち伏せされたわけでさっさと帰っていればよかったのではないかなどと今更言ってもしょうがないので勝てばいいだけである。
 というか、そもそもこれは敵を誘き出すために一党が仕掛けた深慮遠望というやつなのであった。
 のこのことこの場にやってきたハートキャッチ様と残りの陸戦隊を一網打尽にできる好機到来というわけだ。
 もし一党がピンチになっても、ガチムチの花園辺りが助けに来てくれるであろう。おそらく「助けが必要になったらこの笛を吹け」とガチムチから渡されていた笛が役に立つはずである。その笛をうっかりガチムチからもらい損ねていたかもしれないが、丁度いま地面に落ちている笛がそれのはずであるから何の心配もない。
 とても安心し、勝利を確信しつつ次回へ続く。