吾は武と名誉を重んじるドラゴンボーンの戦士、へカチン。
 高貴にして神秘なるエラドリンのレンジャーと神の御業を顕す敬虔なるエルフの僧侶グエドベ、怜悧なるヒューマンのウィザードであるペンテル、更に新たに加わりし神の護り手ヒューマンの聖騎士スプマンテらと共に旅をしている。
 あてどない旅である。


 さて、再び死者どもが彷徨う魔城と化した枯枝城へと向かう吾等。
 その途上、死者達の群れに襲われるハーフリングを見る。
 義を見てせざるは由紀さおり。
 吾等はその死者どもを討ち果たし、そのハーフリングを救うのだった。
 ハーフリングは自らをソイジョイと名乗り、深々と頭を下げてきた。
「危ないところをありがとうごぜえやす。ところであなた方はどちらさんで?」
「我々はエンジェルキッス団の者だ」
 そうらしい。吾等善なる一党はそんな名前になっていたのだ。だって、高貴なるエラドリンがそう名乗るのを誰が止められよう。
「人助けはマイプレジャー」
 そうも嘯く。
「ところで、あなたは何故こんなところでゾンビに追われていたのですか」
「へえ。実はセイハニーンの司祭デスメトー様に言われて、枯枝城の偵察に行ったんですが……」
 ハーフリングの密偵ソイジョイの話によれば、枯枝城の周りには死者の群れがうろつき大層危険だという。
「城を外から眺めるだけで精一杯で、中まではとても忍びこめやせんでした。あの城へ向かう? およしなせえ。とても無理です」
 そう言われては吾等としても考えざるを得ない。
「セイハニーンの寺院でなんか良いものもらって来ようぜ。この話したらなんかくれるだろ」
 この発言を、たかる、という言葉で理解して欲しくはない。敬虔なるグエドベは神からの導きを期待してこう言ったまでである。一方、高貴なるエラドリンは負傷している密偵ソイジョイに対して、
「よし。貴様もアヴァンドラの使徒としてついて参れ!」
 自らの盾として活用せんと試みるのだった。
 ちょっと久しぶりに冒険を再開したのだが、このように全然キャラがぶれていない。もはや完成されている。いつも通りの吾等であった。いつも通りの全き善。
「そういえば、城にはアンデッドの他にもホブゴブリン達がいやした」
 ソイジョイが話を誤魔化すかのように続けた。
「おかしなことに、そいつらはアンデッドどもの中に居ても襲われる様子はありやせんでしたぜ」
 ほう、ホブゴブリンの一隊とな? 吾等は以前、枯枝城を探索した際、血風党に属するホブゴブリンと共に行動したことを思い返す。
「もしかして、そいつらはこういう印を身につけては居なかったか?」
 吾等は密偵ソイジョイに赤い髑髏のマークのついたバンダナやら指輪やらを示す。
「ああ、それです! 確かにそんな旗印を掲げていたような……」
「そうか。これは血風党の一員であることを示すマークでな……ところで、それを何故俺達が持っていると思う?」
「は!? し、しまったー!?」
 血風党の者にべらべら喋ってしまったことを悔い、密偵ソイジョイは叫ぶのであった。
「まあそれは嘘なのだが、それ以外にも何か見たことはないのか」
 たやすく誤解を解くと、吾等は密偵ソイジョイに更なる話を聞かんとす。
「へえ。そういやあ、枯枝城へと入っていく荷馬車がありやしたね。その荷馬車にはおぞましいことに死体が幾つも積まれているようでやした。その馬車もアンデッドどもに襲われたりはしやせんでした」
「それだ。その真似しようぜ。まず死体を作らなきゃ」
 敬虔なるグエドベが密偵ソイジョイを見つめる。何をする気か、察しと思いやりの文化の中で育ったものであれば明白であろう。
「えーと、そいつらは何かアンデッド避けの護符か何かを持ってるから襲われねえんじゃねえですかね?」
 密偵ソイジョイは自らの身を守るため、独自の推測を披露した。
 高貴なるエラドリンはまだソイジョイを吾が一党に加えんとす。
「君も1人では寂しいだろう。仲間になったらどうか」
「いや、あたしはもうあの城に近付くのはこりごりでさ。この手のことからは足を洗いやす」
 聞くや高貴なるエラドリン、懲罰者の顔となり、
「勝手に抜けるのはセイハニーンが許さない!」
 そんなことをアヴァンドラの信徒から言われても困るであろう。
「私はセイハニーンからアヴァンドラの司祭を命じられている」
 どういうことか。何を言っているのだ、この人は。これで異端審問にかけられぬとは、アヴァンドラは大層心が広いようだ。
「アヴァンドラは心広いかもしれないけど、お前はなー」
 敬虔なるグエドベが高貴なるエラドリンを見つめる。どういう意図か、察しと思いやりの文化の中で育ったものであれば明白であろう。それに対し、高貴なるエラドリンは少しの衒いもない様子。なぜなら、至極当り前のように口にするからだ。
「我こそはアヴァンドラ一の信徒。いつかアヴァンドラを超えるかもしれない」
 そう自らの絶対性を口にする。
「じゃあ、アヴァンドラには頑張ってもらわないと」
 敬虔なるグエドベは善神アヴァンドラのため、世界の平和のために祈った。


 吾等は一旦街へと戻ることとした。血風党のマーク付けて城へ近付けばいいんじゃん? といった意見もあったが、準備を整える意味でも帰還すべきというのが吾等の結論である。ここまで来て戻るだけで1日ほど時間を費やしてしまうこととなるが仕方がない。
「時間は貴重だ。人間にとってはな」
 高貴なるエラドリンがそういうので、戻ることに納得する。
 街に戻るや、吾等はセイハニーンを祀る月の光寺院へと向かった。密偵ソイジョイに縄をうち、
「きりきり歩け!」
 何でか罪人扱いする。そうやって引きだされたソイジョイは、セイハニーンの司祭デスメトーに対し、吾等にしたのと同じ説明を繰り返した。同じ話しを聞く羽目になり、敬虔なるグエドベは大層めんどくさくなってしまったようだ。
「というわけで、あなたも我々と一緒に来るがいい」
 アヴァンドラの使徒はセイハニーンの司祭を顎で使おうとする。
「死者を弔うのは僧侶の務めだ」
「いえ、私はこの寺院を守らねばなりませんし」
「よし、では私が代わりに守っておいてやろう。いってこい」
「事務仕事とかもあるんですが」
「うむ、わかった。やっとく」
 高貴なるエラドリンは安く請け合うのだ。そうまでされては仕方がない。セイハニーンの司祭、
「行ってきまーす!」
 帰ってこなかった。
 嘘だった。


 セイハニーンの寺院を訪れた後、吾等は他にもたかれそうなところを巡ることとする。
「弟に会いに行こう」
 高貴なるエラドリンに身内がいるとは初耳である。
「というわけで、領主の館へ行く」
 いつの間にこの街の少年領主が高貴なるエラドリンの弟になったのか。
「領主を冒険に連れていく。強くなりたいようだったし」
 また無茶なこと言いだしたよこの人。
 でも、領主の館についてしまうのだった。
「今日はいかなるご用件で?」
 侍従長のクラフト老がいつものように取次に出てくる。それに対し敬虔なるグエドベ、首を横に振るのだ。
「いや、俺は用ないから」
 そして館の中へとずかずか入り込んでいく。
「冷蔵庫の中のものとかで勝手にやらせてもらうからお気遣いなく」
 冷蔵庫開けてごそごそやりだすのでクラフトたまらず、
「そのプリンは私のなので手をつけぬように」
「人の家で失礼を働くものではない」
 高貴なるエラドリンがそうたしなめる。
「ここはすでに第2の我が家なのだから」
「一体、皆さま方は何をしに来なさったのですか?」
 クラフトがもっともなことを聞く。そこで、吾等は枯枝城の現状を説明するのであった。するとクラフト、思い煩う風である。
「……また死者が……? 一体どうして……?」
 聞きたいのはこっちだ。
「……もしや……」
 何か思い出したようだ。
「いえ、大したことではございません。ただ、昔の言い伝えの1つを思い出したのです。あの枯枝城は昔、オークの軍勢に襲われたことがあります。当時の枯枝城城主はその危機に際し、秘術を用いて城を護りました。が、結局は全てを失い、城を去ったというものです」
 そのような話を以前にも聞いたような気はする。
「その城主の用いた秘術というのが死者を操り兵と為す、といった呪われた術であったとか。そして、その報いとして城主自らもアンデッドと化してしまったということで……あの城はそのような経緯から死者に所縁があるというか、死者を呼び寄せるのかもしれませぬな……」
「城を焼きつくすしかない」
 高貴なるエラドリンが即断す。もしこの場に怜悧なるウィザードペンテルがいたとしたら、大いに賛同したであろう。火計大好きな男であるからだ。ちょっと今回、無口な男となってしまっているのが残念である。
「じゃあついて参れ」
 高貴なるエラドリン、クラフトにそう命ず。
「いやです」
「ダイナマイト買っていこう! D&Dといえばダイナマイト!」
 城を爆破せんと敬虔なるグエドベがそう言った。
 そこへこの街の領主である少年ウィルが顔を出す。ウィルは吾等を見るなり破顔一笑、
「ようこそ! また冒険の話を聞かせてください」
 聞けば、ウィルは強くなるために鍛錬を怠っていないという。
「どれ。どれだけ強くなったか試してやろう」
 高貴なるエラドリンが乗り出した。
「こいつがな」
 そして、敬虔なるグエドベに振るのだ。少年との試し試合を押しつけられたグエドベ、
「大人だから本気でいく」
 敬虔なるグエドベの決意は固い。殺す気である。容赦ない。
「と、思ったけど何かを感じて後ろ向いて戦う」
 グエドベの後ろにはロングソード構えた高貴なるエラドリンがいるだけだ。そして、グエドベは少年領主にそっと囁いた。
「……本当の敵はあいつだ……!」
 真の敵を知らされたウィル、更なる強さの高みを目指すことに開眼す。
「よーし! 今度下民を連れてきて試し切りしてみます!」
 高貴なるエラドリンの薫陶の賜物、順調に間違っている。
「よし。それは私が用意しよう」
 高貴なるエラドリンがまた間違いを教えた。
「……弟に変なこと教えるな」
 不機嫌そうな口調と顔つきで現れたのは領主の姉、ミリーであった。お前は呼んでない。
「あれだけ下品に騒いでたら誰だって気付くわよ」
「どうだ? 弟を見習っているか?」
 高貴なるエラドリンのふんぞり返った態度を見て、ミリーは鼻で笑う。
「変わってないわねー。エルフだから進歩がないのね」
「エラドリンだ」
「ああ、もっと悪い」
 ともかく、ウィルを冒険に連れ出そうとする吾等に向けて、ミリーは『二度と来るな!』と一喝。吾等はエメラルドを投げつけられ追い出されるのであった。


 クラフトから聞いた枯枝城の城主の話。どうにも黒い魔術の匂いがする。
「そういう系統の話だったら、ウェスト家が詳しそうじゃなかった?」
 確かにあそこの当主は陰気な術者めいてはいた。少なくとも、名家としてこの付近の歴史に通じているやもしれぬ。
 吾等はウェスト家にもたかりに行くこととする。手当たり次第、根こそぎご援助いただく所存だ。
 と、ウェストの屋敷にて使用人が言うには「今立て込んでいて主人は会えない」とのことであった。そうかそうか、忙しいのであれば仕方がないな、などと引き下がる吾らでは当然ない。
 使用人を威圧し、勝手に上がり込む。もう押し込み強盗の類だ。衛兵呼ばれたら一発で捕まるぞ。でも、衛兵を呼べないような立て込んだ状況であろうこと、吾等は嗅覚で捕えている。
 屋敷の2階から大声がするのだ。
「……お前らがやったことだろうが!」
「……それはないんじゃないか? 今更、知らん顔は無しにしようぜ。そっちがそういう態度なら、こっちは全部ばらしてやってもいいんだぜ……?」
 吾等は使用人を脅しつけ、2階の扉を開けさせる。
「ご主人様、お客様が……」
「バカ者! 入ってくるな。客など帰ってもらえ!」
「そうは言っても、いろいろ大変なんでございます!」
 吾等はその陰から中を窺う。そこに居たのは、この家の当主ウェスト、それにティーフリングの闇の剣士とその配下であろう戦士達であった。高貴なるエラドリンにはそのティーフリングに見覚えがある。前回、ゴッドクロスのパーツを渡すよう要求してきた血風党のショックなる男だ。ウェストはやはり血風党と繋がりがあったようである。どうも仲違いをしかけているようではあるが。
 そのショック、扉の外に居る吾等に気付いた様子で、
「……よう。ゴッドクロスのパーツを渡す気になったのか?」
 早速呼びかけてくるではないか。ばれているなら仕方がない。このままなだれ込んで討ち果たすまでであろう。が、室内にいるショックの配下は狂戦士やエラドリンの魔道士やなかなか手ごわそうである。全部で5人。ウェストも合わせれば6人だ。ウェストが戦いに加わるかどうかはわからぬが。
「お前こそ、ゴッドクロスのパーツをこちらに渡せ」
 高貴なるエラドリンの買い言葉に、ティーフリングの剣士はにやりと笑って見せる。
「……正直、そうしてやってもいいと思ってるのさ、俺は」
「どういうことだ?」
「お前らがどこかで野垂れ死んでゴッドクロスのパーツがマガンテの手に渡ったら……奴を倒すことはできなくなる。ゴッドクロスはそのくらいマガンテにとって重要な代物らしい。だから、それを避けるためにもお前は俺にパーツを預けるべきだ。しかし……お前らが有能でそこらでおっ死ぬような羽目にならないのなら、お前に預けるっていうのも1つの手だと思ってな」
「ほう。そうか。なら渡せ」
「お前らがそこそこやるってことを証明すればな。そこで相談だ。この街の地下水路は知ってるな?」
 言わずもがな。吾等は何度か潜ったことがある。
「そこに俺達のことを嗅ぎまわって邪魔しようとしてる奴等がいるのさ。そいつらをやってきてくれないか? それができるなら、俺もお前らの力量を信用してパーツを渡してやってもいい」
「ほう。そうか。わかった。まず先に渡せ」
 もう交渉だか何だか言葉が通じているのかすら怪しい。
「その地下水路に居る連中ってどんな奴等? 中にドラウとかいない?」
「ああ、確かにいるな。マガンテに忠誠を誓っている馬鹿どもだ」
 吾等には思い当たる者がある。ドラウの女神官フェイターンなる者がいた。
「お前はマガンテに忠誠を誓っていないのか」
「前にも言ったと思うがあいつはおかしい。かき集めた兵隊やら金やら、それでもまだ足りないとぬかしやがる。北の荒れ地に全部持っていっちまう。そろそろマガンテ様には退場いただいて、俺達が楽しむ番さ」
 ショックはマガンテになり替わるつもりであるようだ。小物であろう。
 ともかく、ショックからゴッドクロスのパーツを手に入れるには地下水路に居るフェイターン達を倒さねばならぬ。知らぬ顔ではないとはいえ、所詮邪悪な血風党である。
「いや、フェイターンはアヴァンドラに改心した」
「お前の中でそういう美しい思い出になってるならそれでいいや」
 高貴なるエラドリンの言葉に敬虔なるグエドベは応えるのだ。
「地下水路の連中を倒しに行くから、そのためにもゴッドクロスのパーツよこせ」
 吾等のたび重なる要求にも、ショックは力量を示せと返すのみ。ならば、と吾等は技量を示すために技能チェックを行うのだった。運動や軽業、あとやはり口八丁手八丁の交渉やらはったりやらである。しかもついでに、
「こいつらのことをばらされたくなかったら、この前のロングソード+2寄こせ」
 ウェストからもむしり取ろうとする始末。
「この状況でそういうことを言えるとは。強欲なエラドリンよ。気に入ったぞ!」
 高貴なるエラドリンの傍若無人さにショックは笑い出した。
「そうだろう。こいつ、お前よりすごいぜ」
「確かに。俺もさすがにここまで面の皮は厚くない」
 グエドベの言葉にショックも大いに頷く。
「わ、わかった。とにかく、約束だ。このことは内密に……」
 一方、ウェストも剣を差し出す。
「約束は高くつくものだ。月々の料金がかかる」
 まだたかる。だが、約束は約束だ。
「今は黙っておいてやろう」
「今は?」
「情勢によっては……」
 ウェストが非常に渋い顔になった。
「お前達のやり方はよくわかった。小賢しいことを言っておきながら、最後には約束を破る気だろう」
「約束を破ったことなどない!」
 敬虔なるグエドベはそう高らかに宣する。そして、高貴なるエラドリンの視線に対して迷惑気に、
「なんか見られなくていい奴に見られてんだけど? こいつにだけはそんな目で見られる筋合いはないって奴に見られてるんだけど?」
 こうして吾等はウェストからロングソード+2を、ショックからはゴッドクロスのパーツ、剣の刃の部分を得たのであった。高貴なるエラドリン、新たに得たゴッドクロスのパーツを自らの持つ柄の部分と組み合わせて腰に佩く。
「じゃあもらったから、口封じに殺る」
 早速か。
「悪の栄えた試しなし!」
「つまり、今栄えてる吾等は悪ではないということだ」
「ウェストに剣を返してやろう。胸に」
 ドキドキするような善。世界を滅ぼしかねない。


 結局、そんな約束破りはせずに、まず地下水路に行くのだった。
 フェイターン達を探し出し、彼女達をショック達にぶつけてやろうという寸法だ。もしくはフェイターン達を盾代わりに連れていき、力技でショック達を討とうという魂胆。また他人を利用して自分達が利を得ようという、実に合理的判断であろう。吾等はいつも他人にやらせようやらせようとしているように見えるかもしれないが、悪を利用して悪を倒すとは善の極みである。何も問題なし。
 吾等は技能チャレンジで地下水路を探る必要がある。
「それ以前に、地下水路の入り口がわからない」
 初っ端から1振ったグエドベが手探りする。それでも、何とか奥へと進んでいく吾等善なる一党。と、その先に僅かな灯と人影が見えてきたではないか。
「フェイターン!」
 高貴なるエラドリンが大声で叫ぶや、人影はさっと闇へと消えてしまった。ただ1人を除いて。
「まあ。あなたですか」
 浅黒い肌に白い髪のドラウは高貴なるエラドリンに挨拶する。
「ようやく血風党に入る決心がついのですね」
「アヴァンドラに信仰変えする決心はついたか?」
「この人達、会うといつもこのやり取りしてる」
 グエドベの言葉は2人には届かぬ。
「マガンテもアヴァンドラの信徒になればいい。末法の世に光をもたらすのはアヴァンドラだ」
「今からでも遅くありません。マガンテ様にお仕えすればその素晴らしさがわかります」
「まあ、この紙の隅っこのところに名前書いてもらえればそれでいいですよ」
 神の護り手、アヴァンドラに仕えるパラディンのスプマンテが入信申込書をフェイターンに勧める。アヴァンドラを信じる者はこんなんばっかりか。
 ともかく、吾等がショック達のことをフェイターンに告げると彼女は顔色を変えた。
「あれは酷い男です。あんな者と関わってはいけません。彼はあなた方を体よく利用しようとしているだけです」
 聞けば、フェイターンらの仲間はショックに与する者達から様々な仕打ちを受けているらしい。
「あの男はマガンテ様に牙を剥こうとしている。だから、マガンテ様に忠誠を誓う我々が邪魔なのです」
 血風党の中でマガンテに忠誠を誓う者達とそうでない者達との間で諍いがあるようだ。そういえば、枯枝城にいるアンデッドどもやホブゴブリン達はどちらなのであろうか。
「まさか、枯枝城へ行くのですか? お止めなさい。あそこへ行くには血風党の者でも特別な護符を持たない限り危険です」
 フェイターンの言葉に、グエドベ、迅速に右手を差し出し、
「くれ」
 その護符とやらを要求するのだ。
「残念ながら、私はそのアンデッド避けの護符を持っていないのです」
 これだからドラウは駄目だ。
 じゃあ、ということでもう一度ウェストのところへ戻る。そこにいたショックに枯枝城のことを話せば、
「あの城のアンデッドどもを倒してくれるのか? いいぜ、人数分護符を都合してやろう」
 と、中々に役に立つ。
「あの城のアンデッドどもを指揮しているのはスカルロードというアンデッドだ。マガンテに仕える小うるさい奴でな。上手く始末してくるといい」
 というわけで、吾等は枯枝城へ辿り着くのに必要な護符を手に入れ、準備を整えた。
 あれ? ショック達はどうするのか。フェイターン達を連れてくることはできなかったわけだが、このまま放っておくのか。
「300年くらい放っておけば勝ってるし」
 高貴なるエラドリンの必勝法、長生きが炸裂した。さすがエラドリン、物の捉え方が違う。
 というわけで、吾等はショックのことは放置することにした。ただ、町長のところへ行き、
「ウェストが怪しいっすよ」
「とにかくウェストから監視の目を怠らないように」
 そう告げただけだ。ショック自体は放置しているといっても間違いではないはず。
「これなら別にウソをついているわけでもないし、ショックのことを話すなという約束も破っていない。チンコロしてない。ちゃんと筋を通している」
 高貴なるエラドリンは胸を張る。
「これで自分で筋を通していると言えるのがすげえ! 俺は後ろ暗いことを感じるのに、自分さえ騙すとはすごい!」
 グエドベがそんな高貴なるエラドリンを称賛した。


 他に町長から人数分のヒーリングポーションをもらったり、セイハニーンの司祭デスメトーからポーションオブクラリティを2本もらったり、と戦いに備えることに余念なし。
「ポーションオブクラリティってどういう薬?」
「これ1瓶飲んでおけば、1回だけ振り直しができる」
「つまり3万本飲んでおけば、幾らでも振り直しができる」
「あー19か。振り直しちゃおっかなー」
 更にパラディンのスプマンテはプレートメール+1とバスタードソード+1をティーフリングの商人スリルから購入す。購入というか、いつものようにサイコロ勝負で手に入れたのだが。
 ともかく、もう十分であろう。吾等は再び枯枝城へと向かった。今一度アンデッドどもを駆逐するのだ。
 途中、何度も死者の群れに出会う。が、ショックからもらった護符のおかげか、死者達は吾等に見向きもしない。
 そうこうするうちに、いよいよ枯枝城が見えてくる。小高い丘の上に立つ廃城は今やうろつきまわる死者に囲まれ腐臭凄まじい。
 と、城へ向かう荷馬車を見る。御者はホブゴブリンのようであった。死者の群れはその荷馬車にも襲いかかる様子はない。あれも血風党の手の者であろう。荷馬車に積まれているのはどうみても死体。それもどこかから掘り出してきたかのように土にまみれている。
「こちらも血風党の振りをして近付こう」
 吾等は血風党のマークのついた指輪やらバンダナやらを身につけ、その荷馬車に向かって手を振った。すると、向こうも気付いたのか手を振り返してくる。
「……死人どもにたかられてないってことは、あんたらも血風党……だよな?」
 荷馬車を止めて挨拶してきたホブゴブリンは吾等の顔を見て、小首を傾げた。そして、
「何しに来たんだ?」
「いやあ、俺達もここへ行けって言われただけで。新しく配属されたんじゃない?」
「人員は足りてるはずだが……そもそも、俺達の部隊はホブゴブリンだけの部隊だし、あんたらが配属されるとしたら、あの臭え骸骨の親玉のところか?」
「あんたは何を運んでいるんだ?」
 吾等は荷馬車のおぞましき積荷を見て言う。と、ホブゴブリンは肩を竦めるのだ。
「素材さ。城で死人どもを作っているスカルロードの命令でな。……まったくやってられんぜ」
「ホブゴブリンとそのスカルロードは仲が悪いのか?」
「仲が悪いってわけじゃないが……だが、気に入らんのは確かさ。俺らホブゴブリンは戦いの神ペインに従っている。俺らは死後、ペインの元で永遠に戦い続けるんだ。なのに、あのくっさいアンデッドときたら……。俺らホブゴブリンの死体すら素材にしちまうんだ。こんなことが許せるか? アンデッドの神ヴェクナに俺らを捧げて、俺らに約束されている死後の戦いを冒とくしてやがる……命令だから従うしかないがな」
 などと話しているうちに吾等は荷馬車と共に枯枝城へと到達した。城の門を守るのは荷馬車の御者と同じ、ホブゴブリン達だ。手に手に武器を持ち、吾等を窺うようである。
「……なんだ、あんたらは?」
 疑念の含まれた問い。それに対して高貴なるエラドリン、1人1人のホブゴブリンを指差しつつ、
「ユー! ユー! ユー! よろしく!」
「うわーむかつくー」
 心のこもった挨拶でホブゴブリン達の気分を害すことに成功す。
「俺達はこの城に新たに配属されることになったものだ」
「そんな話聞いてないぞ」
「でも、そうかそうか。なら、まずスカルロードさんに挨拶して来いよ」
「ああ、絶対スカルロードさんに会った方がいいな!」
「この城に配属されるってんならまずスカルロードさんに確認取らなきゃ」
 ホブゴブリン達は、やけにこの城の支配者であるというスカルロードに吾等を引き合わせようとするのだ。
「スカルロードさんのところまで案内してやるよ!」
 わざわざ敵の大ボスのところまで案内してくれるというのだから、ありがたい話ではないか。
 吾等は城の地下へと連れて行かれる。
「この先に居るから。じゃあな」
 吾等を案内してきたホブゴブリンはそそくさと去った。
 どういうわけか、問答無用でバトルの予感。吾等は隊列を組んで、奥にスカルロードがいるという扉を開けた。
 果たして、そこには骸骨の群れが控えている。一番奥に大釜が鎮座し、その前に立つ三つ首の髑髏がスカルロードであろう。その脇には4本手の骸骨が護衛然として立ち、その近くに浮いているのは燃える頭蓋骨。他にも全身が燃えている骸骨や肘から先を削って棘のようにした骸骨などが並んでいる。
「何だ、お前達は?」
 スカルロードが誰何してくる。吾等は魔法砲台たるペンテルを後方に置いて、前衛を固める形である。それがスカルロードの不興をかったようで、
「どうしてそこの者だけ後ろに控えているのかね」
「こいつ、恥ずかしがりや何すよ」
「後ろに隠れてないでちゃんと挨拶しなさい。そんなことでは実社会でやっていけんぞ。なあに、取って食ったりはせんから。わっはっは」
 吾等は血風党から新たにここへ配属されたものであるとの説明を繰り返した。当然、
「そんな話は聞いておらんが……」
 不審に思われてしまう。
「とにかく、何かお手伝いできることがあれば何でもしますぜ?」
「そうか。実はノルマが厳しくてのう……」
 スカルロードは愚痴をこぼし始めた。
「作ったアンデッドをどんどん納品しなくてはならんのだが、素材がどうにも足りん。そこら辺の墓を掘り返してまで調達している始末だ。できれば近くの村から村人でも攫ってきて死体にできればいいのだが、それをやらせようとするとホブゴブリンどもが厭な顔をするのでな。どうにも行き詰っておった。そこでどうだろう? お前達、素材を調達してきてくれんか。素材1体につき金貨50枚払おう。そこらへんの村人を1人攫ってくるだけで金貨50枚だ」
「なんだ、こいつ話しのわかる奴じゃないか」
 お金さえもらえれば立派な取引相手である。と思ったけど、やっぱりそれは悪いことだと思うので止めました。というわけで、
「実は我々はここ最近のアンデッドの納品の遅れを査察しに来たのだ」
「挨拶しろっていうか、お前の方が謝らなきゃいけないんじゃないのか?」
「上に報告するぞ?」
 突然強気に出るのだ。スカルロード、戸惑って、
「ぬ? お前達は……?」
 はったり成功。そして、不意打ち。吾等は一斉に襲いかかるのであった。
 吾は敵の前衛となっているスケルトンに突撃す。スプマンテや高貴なるエラドリンも同様だ。ペンテルの火炎の魔法が雑魚のポンコツスケルトンを数体纏めて吹き飛ばす。
 だが、不意打ちから回復した敵側の反撃は容赦ないものだった。
 4本手の骸骨、スケルタル・トゥーム・ガーディアンが脅威の移動力8を発揮していきなり敬虔なるグエドベに接敵してきたのである。しかも4本手というところから予想される通りの4回攻撃。グエドベ、いきなり死が間近に。しかも棘手の骸骨、ボーンシャードスケルトンにその棘で突かれる。
「あ、これで継続ダメージ5が入って死ぬわ」
「あー、じゃあ、さっきの自分の手番の時アクションポイント使って追加行動してたことにしてください。その追加行動でグエドベにヒーリングポーション飲ませておいた。そういうことにする!」
 完全に後だしじゃんけんであるが、こっちも酔っ払ってたのでそのくらいいいじゃない。飲みながらゲームやるとポカが多くなるから仕方ないのだ。いいの。俺がルールだ。
 そのくらいの勢いで、吾は敬虔なるグエドベにヒーリングポーションを飲ませるのだった。これで、1ラウンド目でいきなり回復役が戦闘不能になるのをなかったことにできる。それに吾はどうしてもお返しをしなくてはいけなかったのだ。以前、グエドベにグレープフルーツ味のヒーリングポーション飲ませてもらった、そのお返しを。
「さあ、この穿き古した靴下みたいな味のするヒーリングポーションを飲むのだ飲むのだ」
 敬虔なるグエドベ、これまで見たことのないような酸味のきいた顔をした。


 といったところで、時間が無くなってしまったため、戦闘中にもかかわらず次回へ続く。