長年にわたる将棋史研究が評価され、将棋の振興や普及に貢献した人物に贈られる第21回大山康晴賞(日本将棋連盟主催)を受賞した。「大山さん(康晴十五世名人)と出会ったことで海外にも将棋を発信することができた。賞までいただき、改めて巡り合わせを感じます」
長崎市出身。子供のころから将棋に熱中し「へそ曲がりなんで、だれがこんな面白いゲームをつくったのかという過程に興味をもつようになった」という。メーカー勤務のかたわら、文献を調べて専門誌などに発表していたことが日本将棋連盟の大山会長(当時)の目にとまり、昭和55年、江戸時代の将棋家元の一つ、大橋家に伝わる古文書の解読を依頼された。幕府からの俸禄では生活できず、長屋の家賃収入が頼りだった棋士の実態が浮かび、研究にのめりこんでいった。
日本への伝来の時期やルートが不明だった将棋。文献や駒などの証拠を見つけ、10世紀後半~11世紀前半に伝わったという説を発表すると、プロ棋士から感謝された。同じ盤上遊戯の囲碁、チェス、すごろくなどにも研究対象を広げ、現在は遊戯全般を研究する遊戯史学会の会長を務める。
「江戸期に盛んだった遊びは、富国強兵が言われた明治期に、役に立たないものとして取り締まりの対象にもなった。人間に遊びは不可欠なのに」。とは言うものの、真剣に遊びを研究してきたため「趣味で将棋を指す時間がなくなった。歴史を知っているからといって強いわけじゃないよ」。目下、遊びがどう誕生したかを探る研究に着手している。(伊藤洋一、写真も)