【新・仕事の周辺】死をみる仕事 久坂部羊(小説家、医師) | 毎日のニュース

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 医者の仕事は病気を治すことだが、同時に死をみる仕事でもある。単に「見る」のではなく、「診る」「看る」「観る」をしなければならない。

 当然ながら、はじめは畏(おそ)れおののき、恐怖を感じる。しかし、何度も経験するうちに、次第に慣れ、衝撃も弱くなる。同時に恐怖も薄れてくる。実際、私は今、さほど死を恐れていない。もちろん、いざ死に直面すると、どうなるかわからないが、少なくとも日常的に死を怖いとは思っていない。

 死はごく当たり前のことで、死ぬ間際に取り乱したり、泣き叫ぶ人はいないし(病死や老衰の場合は、そんな力は残っていない)、死んだあとは、だれしも等しく安らかな無表情になる。当人にとっては、死は目覚めることのない深い眠りと同じで、何も感じることがない。だから、恐怖もないのである。

 怖いのは、むしろ苦しみながら、死ぬに死ねない状況に陥ることだ。無益な延命治療を受けたり、むやみに長生きしたりしたら、つらい“生”を生きなければならない。その先に回復の見込みがあるならまだしも、ただつらいだけの“生”は、当人はもちろん、周囲にも耐えがたい。だから、それを終わらせてくれる死は、ある意味で“救い”でもある。