【書評】『愛なんて嘘』白石一文著 | 毎日のニュース

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 ■人は孤独から抜け出せない

 たとえば、手をつなぎ幸せそうに公園を散歩する恋人同士や夫婦を見て、違和感を覚えたこと、ありませんか? 『愛なんて嘘』は、その感覚は実に正しい、と太鼓判を押してくれる短編小説集です。

 描かれているのは、6つの愛の形です。登場人物たちは皆、いわゆる普通で幸せな生活を送っています。定職に就き、結婚し、出産し、周囲から見たらうらやましい人生かもしれません。しかしその人生は偏りを孕(はら)んでいて、“この愛は、人生は、嘘だ”と気付いたとき、彼らは新しい世界へとダイブします。私たちの想像もできない方法で。

 離婚し、それぞれ再婚し子供まで授かったのに、いつか必ず添い遂げる約束をしている男女。亡くなった親友の妻に同居を強要された男。そしてある女は、あまり接点のない上司に1年後、共に出奔してほしいと頼まれます。それが真実の愛か、最後の恋なのかわからないのに、常識外れな決断を下す彼らの姿は、狂気にまみれています。しかし、これこそが、究極の純愛なのかもしれません。

 白石一文さんはおっしゃいました。この短編集を書くにあたり一番意識したのは、人は本質的に孤独であり、その孤独から抜け出すことはできないということだと。

 恋愛しても結婚しても、私たちは結局一人。ならば、しない選択もあるし、抗(あらが)えない運命にであったら、どんな決断を下したっていい。そんな強さと希望を白石さんは私たちに与えてくれます。

 あなたは今の生活、“愛なんて嘘”ではありませんか? (新潮社・1600円+税)

 新潮社出版部 高橋亜由