豊富な水をたたえる福島県楢葉町の木戸川。川岸に立ち、その流れをじっと見つめる目には、寂しさと期待が入り交じっていた。
「やっとここまで来た。あと少しなんです」
木戸川漁協でサケのふ化場長を務める鈴木謙太郎さん(32)は、川底に引っかかった網を引き上げ、太平洋が広がる河口の方へ目をやった。
東京電力福島第1原発事故で住民避難が続き、手入れが行き届かなくなった川岸には雑草が生い茂り、河口近くには津波で流されたテトラポットが残る。東日本大震災から3年半が過ぎたが、震災前の姿を取り戻すにはまだ時間がかかる。
木戸川は日本有数のサケの漁場として知られ、平成7年には捕獲数が本州一になった。漁協は震災前まで毎春、人工で孵化(ふか)させた約1600万匹のサケの稚魚を放流。多いときには10万匹が故郷に帰ってきた。
鈴木さんの話では、サケは放流から4年程度で遡上(そじょう)してくる。最後の放流は震災1年前の平成22年春。今年秋から冬にかけて戻ってくるが、23年以降は放流していないため来年以降の遡上数は激減しそうだ。
「遡上する数が減ると、木戸川のサケを絶やしてしまう。だから、一日も早くきれいな川に戻し、稚魚を放流したい」