【賢者に学ぶ】「保守主義」という矛盾 哲学者・適菜収 | 毎日のニュース

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 劇作家の福田恆存(1912~1994年)は、保守の本質について極めて正確に指摘している。すなわち保守は「主義」、つまりイデオロギーになりえないと。

 「私の生き方ないし考へ方の根本は保守的であるが、自分を保守主義者とは考へない。革新派が改革主義を掲げるやうには、保守派は保守主義を奉じるべきではないと思ふからだ」(「私の保守主義観」)

 当然だ。保守とはイデオロギーを警戒する姿勢のことである。保守は常に疑い、思考停止を戒める。安易な解決策に飛びつかず、矛盾を矛盾のまま抱え込む。保守の基盤は歴史や現実であり、そこから生まれる《常識》である。

 彼らは革新勢力の《非常識》に驚き、「乱暴なことはやめましょう」と警告する。つまり、保守は常に革新勢力の後手にまわる宿命を負っており、特定の理念を表明するものではない。福田によれば、保守は改革主義の火の手があがるのを見て始めて自分が「保守派」であることに気づくような存在なのだ。

 一方、革新勢力は、歴史や現実の中に障害物や敵を見出(みいだ)す。よってその外部に「歴史観」「世界観」を設定する必要がある。

 近代とは、自由・平等・人権といった理念を完全な形で実現しようとする運動であるが、その背後にあるのは、歴史に法則(見とほし)が存在するという信仰、すなわち進歩史観だ。