奪首ならず、でした。ムードはよかったんですけどね。勝てば首位に立つ一戦。和田監督のテンションは試合前から高かったそうです。
「いよいよですね」
球場入りする和田監督にサブキャップ阿部祐亮がそう話しかけると、「何がいよいよだよ」。
『そうだな。本当の勝負はまだ先だもんな』と思い、阿部が苦笑いしていると、和田監督が突然こう言ったのです。
「松本か!!」
松本? キョトンとしていると、右肩を力強くグッとつかまれて今度はこう言われました。
「笑わんかい!! 笑うとこやで」
笑う? さらにキョトンとしていたら。
「世代が違うか…」
それでも分からなかった阿部が、ぶらさがりの後、2つ下、29歳の小松真也に「なんだろうか、松本って。TIMのことかな」と聞くと。
「あ、分かった。いよいよ…イヨ、松本伊代ですよ」
「難しすぎます。他社のトラ番も大半が理解できてませんでしたよ。なんで小松は分かったんだろ?」
松本伊代は、1981年10月に「センチメンタル・ジャーニー」で歌手デビュー。♪伊代はまだ16だから~のとき、阿部はまだ~ 生まれてもいません。
和田監督のテンションの高さはその後も続き、お盆休みの「ドーム内見学ツアー」に参加していた家族連れにすれ違うと、笑顔で手を挙げて「おはようございます!!」。選手たちの球場入りに支障がないよう、通路の両サイドの壁際で列をつくって待っていたお父さん、お母さん、チビっ子たちを感激させていました。
余裕と勢い、自信を感じた阿部は、「勝てば首位というとき、いつも負けてきたんですけどね。今回は違うと思います。一気に行くんじゃないですか」。