【明日へのフォーカス】ウィルソンと安倍首相の王道 高畑昭男  | 毎日のニュース

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 一国の基本政策を根本から切り替えるには、指導者自らの生命を懸けるほどの多大なエネルギーと決意が必要だ。

 黒人奴隷制を廃止するために南北戦争の多大な犠牲を払い、自らも凶弾に倒れたリンカーン米大統領はその一人だ。ほかにも外交・安保分野では、建国以来の孤立主義の伝統を改め、国際協調と積極的対外関与を柱とする米外交の王道を開いたウィルソン大統領が有名だ。

 ウィルソンは歴史・政治学博士で、100年前に起きた第一次世界大戦にめぐりあわせた。アイビーリーグの名門、プリンストン大学学長やニュージャージー州知事を経て第28代大統領に選ばれ、初の「学長大統領」と呼ばれた。父親譲りの敬虔(けいけん)なキリスト教徒で、若い時分から「米国は世界平和秩序建設の指導国たるべし」との信念に燃えていたという。

 第一次大戦では国内の反戦世論も考慮して初めは中立・不介入政策を厳守しようとした。しかし、ドイツ海軍が中立国も含めた無差別攻撃に及ぶと、「民主主義を守る戦い」の大義名分を掲げて参戦に踏み切った。さらに、戦後秩序へ向けて「平和のための14カ条」を掲げ、世界初の国際平和機構である国際連盟の創設を提唱したことで知られている。

 だが、苦しいのはここからだった。ウィルソンが提唱した国際連盟は無事に発足したものの、肝心の米議会では孤立主義者らの抵抗が大きく、2度も上院で批准を拒否され、提唱国の米国が加盟できない異常事態のままに終わった。