【産経抄】名簿流出 7月11日 | 毎日のニュース

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 その分厚い名簿を前にすると、襟(えり)を正さずにはいられない。旧ソ連によるシベリア抑留中に死亡した、約4万6300人が収録されている。今年5月、88歳で亡くなった村山常雄さんが、11年かけて編纂(へんさん)した『シベリアに逝きし人々を刻す』である。

 ▼村山さん自身も4年間の過酷な強制労働の日々を送った。「凍土に眠る人たちを無名兵士のままにしてはいけない」。現地の墓参を重ねるうちに募らせた思いが、ライフワークとなった。ロシア語からの不自然なカタカナ表記を正しい漢字に直すだけでも、気が遠くなるような煩雑な作業を強いられたそうだ。

 ▼それに比べて今の世の中、あまりに安直な名簿がはびこっていないか。企業は顧客を囲い込み、消費者は特別なサービスを期待する。両者の利害が一致して、名簿の規模が大きくなれば、それだけ価値を生むというわけだ。同時に犯罪者の標的にもなりやすくなる。

 ▼通信教育大手のベネッセから流出した顧客情報は、最大で約2070万件に及ぶ可能性がある。クレジットカード番号などは含まれていないらしいが、サービスを利用している子供の名前や電話番号の情報が、悪用されることはないのか。保護者の不安が消えることはないだろう。