【鑑賞眼】かれんで凛としたヒロイン、気迫に涙 藤原歌劇団 プッチーニ:歌劇「蝶々夫人」 | 毎日のニュース

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 藤原歌劇団創立80周年記念公演の第2弾「蝶々夫人」。故粟國安彦(演出)と川口直次(美術)による初制作は1984(昭和59)年、以後再演ごとに改訂を重ね、今日に至っている。

 第1幕は舞台左手に蝶々さんの家、中央に赤い太鼓橋、右手に東屋があり、満開の桜が美を添える。透き彫りの欄間をあしらった枠、背景の巨大な扇に描かれた長崎の港の南蛮絵が、単なる写実的情景にとどまらぬ舞台の特質をなす。藤原歌劇団の宝として後世に残すべき名演出と再認識した。

 今回は3人の蝶々さんによるトリプルキャストの3回公演。筆者観劇の最終日は、世界のひのき舞台で活躍する佐藤康子(やすこ)がかれんな中にも凛(りん)としたヒロインを演じた。若く、声になお伸びしろがあるものの、明確な区節の発声と柔軟な歌唱、幅広い表現が見事。第2幕終盤では後ろ姿からほとばしる気迫に息をのみ、涙を禁じ得なかった。

 ピンカートンのステファノ・セッコは声に気品があり、バランスのとれた演唱を繰り広げる。シャープレスの牧野正人は稀有(けう)な声質が際立ったが、個性的な言葉の運びにやや違和感も。

 特筆すべきは指揮の園田隆一郎。劇のツボを巧みに押さえ、淀(よど)みのない棒で雄弁かつダイナミックな音響を、東京フィルハーモニー交響楽団から導いた。往年のプッチーニ指揮者のベタついた感傷や弛緩(しかん)と無縁なその音楽に、豊かな才能とたゆまぬ研鑽(けんさん)が結実していた。

 6月29日、東京・渋谷の新国立劇場オペラパレス。(音楽評論家 水谷彰良)