目の前でさまざまに変化する作品。“動く芸術”といわれるキネティック・アートの展覧会が東京都新宿区の損保ジャパン東郷青児美術館で開かれている。半世紀前に流行した前衛的な美術は色あせることなく、理屈を抜きに楽しませてくれる。(渋沢和彦)
スイッチを入れると四角い箱の中に円錐(えんすい)や円柱などの像が現れる。実像ではなく、回転することによって見えてくる仮の姿でもある。アルゼンチンで生まれフランスで活動したユーゴ・デマルコの「3色の仮想のヴォリューム」。
仕組みはいたって単純で、箱の中に収められた三角形や四角のアルミフレームが、電気モーターで回転しているだけ。それぞれのフレームには緑色などの蛍光塗料が施され、箱の内部に仕組まれたブラックライトで浮かび上がる。動くアートの素朴な作品だ。
一方、見る者の目をくらませるのはグラフィックデザイナーとして著名なイタリアのフランコ・グリニャーニの「波の接合33」だ。赤、黒、白のストライプで構成された油彩作品だが、波打ち、盛り上がり、揺れているように動きを感じさせる。異なる色や規則的な模様を組み合わせることで目の錯覚を引き起こす。こうした作品は、いまならパソコンで容易にできそうだが、すべて油彩で手描きしているのがアナログで、時代を感じさせる。