【書評】『ピアニストたちの祝祭』青柳いづみこ著 | 毎日のニュース

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 ■演奏者としての視点が魅力

 音楽の聴き方はさまざまだから、そこから受け取るものも人によって、聴く時々によってちがう。他の人の見解に共感することもあれば、自分と異なる聴き方を知るのも興味深い。音楽は聴けばわかるじゃないかで済まさずに、こうした本を読むのも楽しい。現役のピアニストで、練達の文筆家としても活躍する青柳いづみこの新著は、話題を呼んだ人気音楽祭の見聞録。

 ラ・フォル・ジュルネ、サイトウ・キネン・フェスティバル松本、別府アルゲリッチ音楽祭、女性作曲家音楽祭、アルカン生誕200年記念コンサートから、ポリーニ、バレンボイム、内田光子、フジ子ヘミングと多彩だが、読み終えてみるとその選択にも彼女の問題意識が強く働いているのがわかる。

 コンサート・リポートは、企画内容のほかに書き手自身の興味や読者の関心への配慮が交錯して読み物としての魅力が生まれる。

 青柳がユニークなのは演奏者としての立場や視点が生きていることで、ラ・フォル・ジュルネは2007年に観客、13年には出演者としてリポートしている。演奏会の企図や出演者の奮闘ぶり、それを聴いた貴重な体験の報告。ポリーニ、海老彰子、児玉桃らの演奏を評しながら、自らの演奏者としての苦心や作品への造詣の深さが顔をのぞかせる。