昼。尾上(おのえ)菊五郎がすっきりした武将の見本形の生締鬘(なまじめかつら)で陶然と斉藤実盛(さねもり)をみせる「実盛物語」。平氏の武将ながら心は源氏の実盛が、未来の源平合戦で自らが討たれる場を語る不条理感とさわやかさの案分が抜群。再会を約し、善悪明るくの定法(じょうほう)を破る特異な見せ場だ。市川左團次がモドリとなる敵役、瀬尾(せのお)十郎で絶妙に絡む。新歌舞伎「元禄忠臣蔵」から「大石最後の一日」は、松本幸四郎の内蔵助(くらのすけ)が際立つ。父・白鸚(はくおう)、弟・中村吉右衛門(きちえもん)と血筋の芸ではと思わせる独占状態の当たり役。片岡我當(がとう)の上使から切腹命令と共に、吉良(きら)家処分をも聞かされ、本懐成就を悟る際の安堵(あんど)の慟哭(どうこく)に胸うたれる。
昼は他に「春霞(はるがすみ)歌舞伎草紙(ぞうし)」で、中村時蔵の出雲の阿国(おくに)、尾上菊之助の名古屋山三(さんざ)の流麗な踊り。締めにけがから復帰の片岡仁左衛門(にざえもん)が万雷の拍手を浴びながら「お祭り」を踊る。孫の片岡千之助が若い者。