楽しい偶然に満ちた東京物語 短編集「ミッキーは谷中で六時三十分」 片岡義男さん | 毎日のニュース

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 今年で作家デビューから40周年となる片岡義男さん(74)が、現代の東京を舞台にした短編集『ミッキーは谷中で六時三十分』(講談社)を出した。「いろいろと違った話を、たくさん、すぐに書ける。だから短編は面白い」。男と女の出会い、交錯する記憶、そして何かが始まる予感を、内面描写を排した乾いた文章と軽やかな会話でつづった洒脱(しゃだつ)な7編が並ぶ。(海老沢類)

◆背中押す明るさ

 収録作には、高円寺、三軒茶屋、下北沢、吉祥寺など、東京の地名がふんだんに出てくる。写真家や翻訳家、画家といった時間に縛られない男女が交わす、対等で、肩の力の抜けた会話も心地いい。

 「根無し草というと言い過ぎだけれど、みんなちょっと浮いているよね。思考が固定されていない。そんな毎日が可能なのはやはり東京。(小説の)ユートピアですね」と片岡さん。

 表題作の主人公は、フリーライターとして生計を立てる28歳の独身男。ふと立ち寄った喫茶店で店主に突然「店をやらないか」ともちかけられる。しかも店主の20代の娘という“おまけ”付きで、と。流れで娘と会った男は、その娘に誘われて彼女の母親が切り盛りする谷中の食堂へ…。予期せぬ出会いがまた別の出会いを生み、平凡な1日が、ある家族の歴史をめぐる楽しい旅に変わる。ほかの6編も、幸福な偶然の連鎖と明るい光にみちていて、読者の背中をそっと押すような不思議な力がある。