【国語逍遥】(46) 和菓子 「名前を味わう」楽しみも 清湖口敏 | 毎日のニュース

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 東京・大手町にある弊社のすぐ近くに和菓子店を見つけ、季節の餅菓子などを買いにいくようになった。子供の頃から餡(あん)、なかでも小倉餡(粒餡)が大好きで、成人して後は日々、甘辛二刀流に磨きをかけてきた。

 和菓子の魅力は何といっても上品な味わいと意匠の美しさにあろうが、小欄筆者としてはその風雅な菓銘(商品名)に触れないわけにはいかない。

 そこで思いつくまま、老舗和菓子店の「鶴屋八幡」と「とらや」のホームページから菓銘を拾ってみたところ、花霞、瀧つ瀬、青楓、阿波の風、新緑、御代の春、残月、藤の棚…と、ごく単純につなぎ合わせるだけでも一篇(いっぺん)の詩になりそうな、美しい響きの言葉が並んだ。誰が言ったものやら、「仰げば尊し和菓子(わがし)の音(おん)」である。

 和菓子の名前は、花鳥風月といった季語や歌に用いる雅語などから採ることが多い。歌枕(古歌に詠まれた名所)に由来する菓銘も少なくない。

 作家の大原富枝には、大津市にある老舗「叶(かのう)匠壽庵(しょうじゅあん)」の銘菓「標野(しめの)」を主題とした随筆があり、この菓子と万葉歌との関わりが紹介されている。