携帯電話やパソコンのキーボードで日本語を「書く」のが当たり前になっている現代の日本人。しかし、こうした「デジタル書き」は約35年の歴史があるだけで、それが日本語や日本人にどんな影響をもたらすのか、確かなことは誰にも分かっていない。デジタル書きが「当たり前」ではないことを思い出すために、ワープロ草創期に日本語と格闘した人々を訪ね、日本語のことを一緒に考えてみた。(鵜野光博)
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「今は孫からメールが来る時代になりましたから、世の中、急に進歩するんだと思いましたね。かな漢字変換ができる携帯電話をみんなが持っているというのも、想像を超えています」
元富士通顧問の神田泰典さん(76)はこう語りながら、小学5年の孫娘から送られてきたという携帯メールを見せてくれた。神田さんは、汎用(はんよう)コンピューターで初めて漢字を扱えるようにしたシステム「JEF(ジェフ)」の開発を率いた人だ。ワープロ「OASYS(オアシス)」、そして親指シフトキーボードの生みの親でもある。
日本人が手書きよりIT機器で日本語を多く書くようになったことについて、神田さんは「漢字かな交じり文の良さは、今のパソコンのかな漢字変換で十分サポートされています。手書き文字の良さはあるにしても、それはまた別の分野の話だと思う」と、あまり問題ではないとする考えを示した上で、こう続けた。
「漢字かな交じり文で日本語を表すことが、生き長らえていますからね」。「生き長らえて」という言葉に、実感がこもった。