■やがて大きな拍手が…
スピーチ(演説)場面が印象に残る映画やドラマは数多い。福井晴敏の書き下ろし小説を映画化した昨秋公開の「人類資金」(阪本順治監督)では、森山未來演じる貧しい国出身の男がニューヨークの国連本部で演説。聴衆はぞろぞろ退席するが、やがて…という感動場面が用意されていた。
さて、この絵本だが、スピーチの主は「世界でいちばん貧しい大統領」として知られる南米ウルグアイのムヒカ大統領だ。なにしろ〈給料の大半を貧しい人のために寄付し、大統領の公邸には住まず、町から離れた農場で奥さんとくらし〉〈花や野菜を作り〉〈古びた愛車を自分で運転して、大統領の仕事に向かう〉。
そんな彼が2012年、ブラジルのリオデジャネイロで開かれた国連の会議で〈質素な背広にネクタイなしのシャツすがた〉で行った演説を、子供向けに意訳して収録したのが本書。
「わたしが話していることは、とてもシンプルなことです」…。無関心だった聴衆から、やがて大きな拍手がわき起こったという。(くさばよしみ編、中川学・絵/汐文社・本体1600円+税)
評・山根聡(文化部編集委員)