沈没する船と、運命を共にしなければならないのですか? 船長が今でもよく受ける質問だという。確かに戦時中の艦船だけでなく、かつては商船の船長の殉職も少なくなかった。
▼現在の法律では、「最後の離船」は、船長の義務ではない。とはいえ、船内の最高責任者であり、すべての責任を負う立場は同じだ。ひとたび海難事件が起これば、すべての乗客の退避を確かめてから船を離れるのが、当然とされる。
▼1912年に北大西洋で沈んだ「タイタニック号」の船長も、救命ボートに乗ることはなかった。それからちょうど100年後にイタリア中部沖合で起きた大型客船「コスタ・コンコルディア号」の座礁事故では、船長は正反対の行動を取った。
▼乗員乗客を置き去りにして船外に脱出し、沿岸警備隊の「船に戻れ」との指示にも従わなかった。この事故では、32人が死亡・行方不明となり、過失致死罪などで起訴された船長の裁判は、今も続いている。