樹脂など現代的な素材を駆使して鎧(よろい)衣装の武者像を創作する美術家、野口哲哉。まだ30代前半だが、コレクターは国内外にいて、注目を集めている。新作を含めた作品約90点を集めた個展がいま、東京の練馬区立美術館で開かれている。精巧でリアル、嘘とも実ともつかない世界が鑑賞者の想像力を刺激する。(渋沢和彦)
ヘッドホンをつけてうっとりとした表情で音楽に聞き入っている侍。鎧の胴には口に指を当てたサルの姿がある。「静かに」というメッセージが込められているようだ。「誰モ喋ッテハイケナイ」という作品。武骨な鎧と現代人の顔をして恍惚(こうこつ)の表情を浮かべるアンバランス。その違和感がなんともおかしい。侍は戦国武将ではなく、実際には存在しない架空の人物で想像上のつくりものだ。
野口の想像力は果てしない。「Rocket Man」は、歯を食いしばった必死の形相でロケットのように空を飛んでいる侍だ。流線形の兜などスピード感のあるデザインで小気味よい。
過去の甲冑(かっちゅう)だけではなく、未来の鎧も制作。「Thing of the operation 稼働する事-Engineering Armor 工学の鎧-」は、プラスチックで未来の鎧を制作した。鮮やかな黄色はポップ。軽くて丈夫そうで、合戦よりも危険な工事現場などですぐにでも使えそうだ。