東日本大震災直後に論壇で生まれた言葉「災後」。大災害で戦後が終わり、新時代を迎えるとの予感が込められた言葉だった。だが以来3年、政治や社会は当時思われたほど大きくは変わっていないようにも見える。この言葉の提唱者で、社会科学系研究者による論文集『「災後」の文明』(阪急コミュニケーションズ)を編者としてまとめた政治史家の御厨(みくりや)貴・放送大教授(62)に、災後3年の心境を聞いた。
「だらだら続いてきた戦後が、大きく変わると思った」。御厨氏は震災直後の平成23年3月下旬から、新聞などで「災後」という言葉を使用し、時代の転換点が来たと指摘してきた。「突然、大勢の人が死ぬ経験は戦後なかった。大量死が生じる社会を作らないということで戦後長らくやってきたが、自然災害という形でその状況は起きうることが明らかになった」
震災で戦後という時代が終わり、災後が始まる。そうした時代認識のもと、御厨氏が代表となって23年11月から開催したのが「震災後の日本に関する研究会」(サントリー文化財団主催)。飯尾潤・政策研究大学院大教授や苅部直(かるべただし)・東大教授ら、政治学を中心とした研究者17人が約2年にわたり討議を重ね、その総括を論文集として今月、刊行した。自衛隊が国民に認知される過程で、災害派遣が果たした役割に注目した「東日本大震災と国民の中の自衛隊」(村井良太・駒沢大教授)など、震災が日本にもたらした影響を考察する論文が並ぶ。