海溝沿いのプレート(岩板)境界断層が非常に遅く滑る「ゆっくり滑り」。人が揺れを感じないこの現象が、巨大地震の引き金になる可能性が分かってきた。東日本大震災でも観測され、将来の地震予測に応用できるか注目されている。(黒田悠希)
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房総沖で発生
海溝付近では、海のプレートが陸側プレートの下に沈み込み、部分的にくっつきながら陸を地下深くに引きずり込んでいる。陸側が元に戻ろうとする力が限界に達すると、両プレートの境界断層が急速に動いて大地震が発生する。
断層面が強くくっついた場所(固着域)では多くのひずみがたまり、巨大地震が起きるが、より深い場所では断層面が固着せず、地震は起きないとされる。
ゆっくり滑りは「スロースリップ」とも呼ばれ、両者の中間的な断層運動だ。震源域のひずみの状態に影響したり、逆に影響を受けたりする可能性がある。
東海地震の予知の前提である「前兆滑り」は、震源域で滑りを加速させるのに対し、ゆっくり滑りは必ずしも加速させるわけではない。現時点で予知に生かすのは難しいが、関係を突き詰めれば利用できるかもしれない。
今年1月、千葉県の房総沖でゆっくり滑りが発生した。相模トラフ(浅い海溝)からフィリピン海プレートが沈み込む場所で、過去に7回観測されていた。
発生間隔はこれまで5~7年と周期的だったが、今回は前回(11年)の3年後の短期間で起きた。東日本大震災でプレートにかかる力の状態が変わったことが影響した可能性がある。
ゆっくり滑り、大震災直前にも観測