「小泉神話」が崩壊した。平成17年の郵政民営化選挙と同様に、小泉純一郎元首相は細川護煕元首相を担いで都知事選も「原発ゼロ」をシングルイシューに掲げ大勝を期した。しかし、地に足のついていないスローガンには切実感もなく、当然都民の共感も呼ばなかった。「政治の師匠」との対決を制した安倍晋三首相は、原発再稼働に向け一歩前進した。
産経新聞が実施した出口調査では「原発・エネルギー問題」が「最大の争点」とする回答は3位にとどまり、福祉や雇用など、より生活に密着した問題の方が都民の関心を集めた。小泉氏は遊説で原発問題のみを話し、都政全般への目配りに欠けた。
選挙期間中に行った世論調査では原発を争点とすることを肯定する人が6割を超えたものの、小泉氏は代替エネルギー問題について「私一人で案を出せるはずがない」と逃げ続けた。細川氏も「専門家による『東京エネルギー戦略会議』を立ち上げる」と述べるにとどまった。都民が判断を下すにはあまりに具体性に欠けた。
それでも小泉氏が細川氏支持を表明した1月14日当初、細川氏有利と判断した与野党幹部は少なからずいた。ある閣僚経験者は首相に電話し「官邸が前面に出ないほうがいい」と進言した。小泉氏の勘の鋭さをよく知る首相が流されてもおかしくなかったが、14日の小泉氏の会見映像をみて、首相は周囲に「全然たいしたことない」ともらした。往年の迫力はないことを早々に見切ったようだ。