【書評】『ディア・ライフ』アリス・マンロー著、小竹由美子訳 | 毎日のニュース

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 ■「出来上がる人生」を目撃

 短編小説なのに、短編小説らしくない。昨年ノーベル文学賞を受賞したアリス・マンローの『ディア・ライフ』を読んだ後、そう思ってしまうのは、長編を読んだ後に感じる、あの長い時間を旅して郷愁に近い感覚でこれまでの物語を振り返る感覚が、不思議なことに、わたしのなかに生まれていたからだ。短いものなら、たった20ページほどにしかならないのにもかかわらず。

 収められた14の作品(うち最後の4作品は連作)は、どれも短編小説ならではの巧みな技術を用いて描かれている。「砂利」では子供の視点が、事件のはっきりした解釈を遠ざけ、かえって読者は世界の深淵(しんえん)をのぞくことになる。「ドリー」の、冒頭でいきなり語られる主人公たちの情況と対照的な急展開や、「湖の見えるところで」の夢のような主人公の足取りにいつの間にか読み手も引きこまれていくのも、読み物としてしっかり面白い。