国際テロ組織アルカーイダ系の武装組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」が、内戦下のシリアやイラクで勢力を拡大させている。シリアでは体制、反体制両派とも敵対、イラクではアルカーイダ系組織の“身内”であるはずのイスラム教スンニ派住民にも攻撃を加えるなど、得体の知れなさが特徴だ。地域混迷の「元凶」となりつつあるISIL封じ込めに米軍の関与を求める声も出ている。
□アッシャルクルアウサト(汎アラブ紙)
■アルカーイダの突然変異種
サウジアラビア人ジャーナリストのファエク・ムニーフ氏は5日付の汎アラブ紙アッシャルクルアウサトへの寄稿で、イラクやシリア北部で活動を活発化させているISILは、アルカーイダのジハード(聖戦)思想に共鳴しながらも、その命令には必ずしも服従しない「ミュータント(突然変異種)」だと分析し、同様の組織の拡散に警鐘を鳴らした。
シリア内戦に乗じ反体制派に参加することで同国での勢力を拡大してきたISILは、支配地域内で厳格なシャリーア(イスラム法)を適用、違反者への処刑映像などをインターネット上で公開している。ムニーフ氏は、ISILが以前にも増して「加虐行為を見せびらかすことに喜びを見いだして」いると非難する。
また、ISILに対しては昨年11月、アルカーイダの現在の最高指導者、アイマン・ザワヒリ容疑者が、シリアから撤退し、反体制派に参加するもう一つのアルカーイダ系組織「ヌスラ戦線」に同国での活動を一本化するよう命じた-とされている。
にもかかわらず、ISILが現在もシリアでの活動を継続しているのは、ムニーフ氏によると、ISILがアルカーイダ本体にとってさえも「制御不能な怪物」に成長しつつあることを示すという。
ただ、ISILがアルカーイダとたもとを分かったとみるのは早計だ。ムニーフ氏は、ISILは他の宗教や宗派を「敵」とみなすアルカーイダの「狭隘(きょうあい)な思想を受け継いでいる」と看破する。
その上でムニーフ氏は、ISILが今後、対立を深めているシリア反体制派の主要武装組織「自由シリア軍」などに勝利し影響力を増す事態となれば、イラクやヨルダンなどの「周辺国に深刻な脅威をつくり出す」ことになると指摘。
そうなれば国際社会は、アサド政権打倒に向けた内戦の大義そのものに疑いの目を向けることになりかねないとして、ISILが成長途上にある現時点で封じ込めを図るべきだと主張した。(カイロ 大内清)