【書評】『天才と異才の日本科学史 開国からノーベル賞まで、150年の軌跡』後藤秀機著 | 毎日のニュース

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 ■人間くさい逸話が豊富に

 明治維新によって開国した日本において、西洋の近代科学が本格的に輸入されるようになってから約150年を経過した。その間にほぼ5世代の科学者が交代したことになる。その生まれ(と代表的人物)を列挙すると、第1世代が19世紀中ごろ(山川健次郎)、第2世代が19世紀末(仁科芳雄)、第3世代が20世紀早々(湯川秀樹)、第4世代が20世紀前半(小柴昌俊)、第5世代が20世紀後半(山中伸弥)ということになろうか。さすがこれだけ代を重ねると、天才・秀才・俊才・良才・偉才・異才・奇才・鬼才・非才と言われる人たちも輩出するもので、それぞれの才能にふさわしいエピソードを残している。

 本書は物理学(窮理)の重要性を唱えた福沢諭吉から始まり、世代ごとの社会の動向とともに、当時問題となった科学の話題を取り上げ、活躍した科学者をめぐる人間くさい逸話を豊富に語ったものである。いくつかの事実誤認が散見されるものの、実に興味深い内容が満載されていて楽しく読めた。特に、森鴎外が固執した脚気(かっけ)の細菌感染説のくだり、北里柴三郎や鈴木梅太郎への東大医学部の権威主義的な態度、七三一部隊に関係した高名な医学者たちの人体実験への関与など、従来比較的控えめにしか書かれなかったことまで具体的に言及しており勉強になった。