■繊細な優しさ、透明な叙情
ひと頃、「美し過ぎる◯×」という言い回しがはやった。宗教曲というジャンルにしては「美し過ぎる」のが、ガブリエル・フォーレの「レクイエム」。悲痛なモーツァルトの遺作、あまりにオペラ的なベルディの「レクイエム」などに比べて、フォーレは演奏時間もコンパクトで、構えたところのない親しみやすさ、繊細な優しさが特徴。
父母の死が作曲のきっかけとも言われているが、別れのつらさや厳粛さ、あるいは宗教的な法悦というよりは、慰めに満ちた旋律、澄み切った叙情が全編を覆っている。
フォーレは長い生涯にわたって、室内楽、ピアノ曲、歌曲を中心に、大げさな誇張のない、精妙極まりない名作を多く残したが、薄い紗(しゃ)を掛けたようなデリカシーには全く抗しがたい。
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団の演奏で。ユニバーサル、1800円(製品番号:UCCD-50048)。(モーストリー・クラシック編集部 寺田俊也)