【被災地から 東日本大震災】震災遺構で体感 津波の恐怖 岩手県宮古市 たろう観光ホテル | 毎日のニュース

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 「逃げて、逃げて!」。迫る津波に子供たちが声をあげた。「バキバキバキ…」。濁流が町を破壊する不気味な音に思わず耳をふさぐ子も。岩手県宮古市田老の「たろう観光ホテル」で、見学者に公開されている津波映像には、町が黒い波にのみ込まれていく生々しい様子が映っていた。

 田老地区は“万里の長城”ともいわれる海抜10メートルの防潮堤で全国的に知られ、津波防災の象徴だった。しかし、東日本大震災の巨大津波は「防災のシンボル」を軽々と越えた。たろう観光ホテルは4階まで被災。1-2階は激しい流れで破壊され鉄骨だけとなった。

 解体か保存か。あの日から2年半以上が経過し、被災各地で津波の威力を物語る震災遺構が今、岐路に立たされている。忌まわしい記憶は消し去るべきか、後世に伝えるべきなのか-。たろう観光ホテルは保存される見通しで、「三陸ジオパーク」の構成遺産にも認定された。

 ジオパークとは、地質学的に貴重な自然と人間との関わりなどを学べる自然公園。三陸ジオパークには風光明媚(めいび)な地質遺産だけでなく震災の遺構も含まれた。

 津波の記憶を語り継ぐ取り組みも始まっている。田老地区では宮古観光協会の主催で、防潮堤とたろう観光ホテルを舞台に防災教育を実施。「学ぶ防災」プログラムと呼ばれ、来訪者はガイドの説明を聞きながら周辺を巡った後、無残な姿のホテル6階に上り、そこから撮影された津波の動画を見る。

 この試みは全国から注目を集め、小中高校生の社会科見学や行政視察なども絶えない。同ホテルの松本勇毅社長(57)は「被災したホテルで当時の映像を見ることで、津波の恐ろしさを知ってもらえれば…」と力を込めた。(写真報道局 三尾郁恵)

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