この秋、2つの「唐版 滝の白糸」 | 毎日のニュース

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 今秋、唐十郎(73)の「唐版 滝の白糸」が2つの舞台で競演する。29日まで上演中の蜷川幸雄(77)演出の舞台には、宝塚歌劇団の元宙組トップスター、大空祐飛(ゆうひ)が退団後初主演し、注目を集める。続いて唐の横浜国立大教授時代のゼミから出発した「劇団唐ゼミ☆」も11月9日から、神奈川芸術劇場で同作を上演。唐独特の“血の美学”を、2つの演出で楽しめる。(田窪桜子、飯塚友子)

               

 ■蜷川演出、体当たり大空祐飛 上演中

 同作は唐が泉鏡花の「義血侠血(ぎけつきょうけつ)」に着想を得て構成、蜷川演出で昭和50年に初演された。物語の舞台は路地裏のゴーストタウン。青年アリダの兄と心中を図り生き残った恋人お甲が、兄の一周忌にやってくる。子供の養育に困窮するお甲に、金を渡す約束をしたアリダ、さらに金を狙う銀メガネ、小人や工事人夫まで登場して争いは頂点に。お甲は彼らに一矢報いるため、自らの手首を切る“血の水芸”を披露する。

 宝塚時代は渋い男役として人気を集め、今回は唐独特の世界を体現するヒロインで女優第一歩を踏み出す大空。「唐さんの戯曲が内包するエネルギーに引き込まれた。人間のすべてをさらけ出す役」と体当たりしている。

 お甲は汚れ役でもあるが、舞台では肝の据わった女ぶり。「戯曲を読み、すごく興奮した。蜷川さんは、丸く収めるのではなく、ここぞという何かを引っ張り出して立たせてくださる。お甲は、女として仕方ない面と、感情をさらけ出す純粋さがある。いろんなエネルギーを持っている。それが周りの人を巻き込む。むき出しの人間だと思います」