大相撲秋場所は横綱白鵬が4場所連続27度目の優勝を果たし、幕を閉じた。14勝1敗で結果的に独走した形となったが、後続を追う力士にとって、希望を抱かせる一番もあった。道筋を示したのは唯一土をつけた豪栄道である。
9日目を終えて、全勝の白鵬と3敗の豪栄道。過去の対戦成績は20勝1敗と横綱にとって、危険な相手ではなかった。この1年は6度対戦し白鵬が全勝しており、全て10秒以内であっさりと決着がつく取組ばかりだった。
そろった好材料が白鵬に油断をもたらしたか。横綱が狙ったのは安易な「とったり」だった。決まり手の一つで、相手の腕を手繰って両手で抱え、体を開いてねじり倒す技。うまくはまれば、相手の前に出る力を利用し一瞬で勝負を決められるが、腕をしっかり取らなければ一転劣勢に回る場合も多い。
栃煌山には6日目にとったりで勝負を決めるなど、白鵬は最近多用していた。豪栄道も今年春場所でくらっており、「何度かやられている」とイメージしていた。敵も三役力士である。そう何度も簡単に決まるわけにはいかない。
白鵬は立ち合いから左でとったりを狙って相手の右腕を手繰るも、失敗。「とったりが抜けて慌てた。その後の流れが崩れたから」。対する豪栄道はあえて右を差さないことを選んだ。得意の右四つにこそなれないが「それ以上に上手を取られたら不利」。とったりをこらえ、組み止められなかった。頭をつけて休まず攻め、引いた横綱は防戦一方。最後は思いっきり押し出した。