【五十嵐徹の一筆多論】明日滅びるともリンゴを植える JR北問題 | 毎日のニュース

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 フロイトは、夢は無意識の不安や不満などを顕在化する手段だととらえた。だとすれば、JR北海道の労使は、悪夢にうなされることはなかったのだろうか。

 道央の石勝線トンネル内で特急が脱線炎上し、79人が負傷する大事故を起こしたのは一昨年5月。全社挙げての信頼回復を誓ったはずが、特急列車の出火・発煙事故や貨物列車の脱線事故など、信じがたいトラブルや不祥事が後を絶たない。安全対策は完全に後手に回ったかたちだ。

 先日も札幌-網走間を走る特急が、自動列車停止装置(ATS)が作動しても非常ブレーキが利かない状態にあったことが明らかになった。運転ミスを隠そうと、ATSをハンマーでたたき壊した運転士もいた。今回も故意の可能性を否定できないという。

 テロリストでもない限り、わざわざ事故を企てる鉄道マンなどいないと思っていたが、その認識は甘かったようだ。

 トップの自殺まで引き起こしながら、過去の反省がまったく生かされていない。恐ろしいモラルの欠如だ。みずほ銀行の暴力団融資とも通底するが、鉄道では乗客の生き死にの問題に直結する。

 高速道路が整備され、飛行機も低運賃化が進んでいる。それでも日本で鉄道が交通機関として圧倒的優位を保っているのは「安全」で「正確」であるからだ。日本人の公共マナーと几帳面(きちょうめん)さが、それを支えている。

 『定刻発車 日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?』(新潮文庫)で著者の三戸祐子氏はそんな指摘をしている。