【主張】福岡の医院火災 悲劇を何度繰り返すのか | 毎日のニュース

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 福岡市中心部の医院で11日未明に火災が発生し、入院患者ら10人が死亡した。医院の前院長夫婦を含む、犠牲者の全員が70歳以上の高齢者だった。医院にスプリンクラーはなく、初期消火は行われなかった。防火扉も機能しなかった。

 多くの犠牲者が出る火災ではほとんどの場合、防火体制に不備がある。高齢者施設などで惨事が起きるたびに改善の重要性が叫ばれるのに、悲劇は繰り返される。患者や入所者の命を守る覚悟がないなら、経営を続ける資格はない。コストの問題は言い訳にならない。

 福岡市消防局などによれば、今年6月の調査で、消防法が定める「防火管理者」が70歳代の前院長の妻だったことが分かり、高齢を理由に交代するよう指導した。その後も変更届はないまま、火災は発生し、医院の3階に居住していたこの妻も亡くなった。

 4階建ての医院にはエレベーターがなかった。高齢や下半身を痛めた患者らの避難が困難だったことは、容易に想像できる。

 出火の発見や通報が遅れて消防の消火活動が遅れ、医院自身による初期消火活動も行われなかった。院内に7カ所ある防火扉は1枚も作動せず、煙は入院病室に広がったとみられる。

 医院のベッド数が19床以下だったことなどから、スプリンクラーの設置義務はなく、実際に設置されていなかった。義務はなくても、入院患者に高齢者が多い医院の特性を考えれば、設置すべきだった。改善点は多々あった。起きるべくして起きた悲惨な火災だったともいえる。

 平成21年3月には、群馬県渋川市の高齢者施設の火災で10人が死亡した。22年3月に札幌市のグループホームで7人、今年2月には長崎市のグループホームで5人が死亡した。いずれのケースでもスプリンクラーの設置義務はなく、設置されていなかった。

 総務省消防庁の有識者部会は今年6月、認知症の高齢者が暮らすグループホームの火災被害を防ぐため、原則として全施設にスプリンクラーの設置を義務づけるよう求めた。これが実現しても、今回のような医療機関に設置義務は課されない。

 医院や施設には、法改正による義務化を待つのではなく、悲劇を防ぐための自らの意思こそが求められている。