安倍首相の悲願である憲法改正が現実味を帯びる中、日本を代表する憲法学の泰斗・西修駒沢大学名誉教授が、その流れを後押しすべく、極めて有益な啓蒙(けいもう)書を刊行した。「西憲法学」の集大成とも言える一冊である。
著者は、のっけから「憲法学者が日本を滅ぼす?」と、日本の憲法学界の大半を占める護憲派に先制パンチを食らわす。憲法とは、いわば国家の柱であり、その国の歴史、伝統、文化といった要素も内包されているものである。したがって、国家論なき憲法論などあり得ない。国家を蔑(ないがし)ろにし、あるいは、その存在を不必要とする護憲派の偽善を暴く著者の一刀両断ぶりは実に痛快である。
策定にかかわった人物へのインタビュー、第1次資料を駆使して描かれた日本国憲法「出生秘話」も面白い。戦後、日本を占領下に置いたGHQ(連合国軍総司令部)は日本の去勢化、無力化、弱体化を図るため、日本人の精神性も民族の道統も悉(ことごと)く潰し、止(とど)めの一撃として憲法を強要した。まさに主権喪失の産物であった。策定の中心メンバーであるミルトン・J・エスマン(GHQ民政局陸軍中尉)が著者に言い放った「外国人によって起草された憲法は、正当性をもちえない」との一言は、その杜撰(ずさん)さを象徴している。