【鑑賞眼】歌舞伎座 八月納涼歌舞伎 筋肉化した喜怒哀楽 お光の美 | 毎日のニュース

毎日のニュース

今日の出来事をニュース配信中!

 4年ぶりの納涼歌舞伎。恒例の3部制で、第1部は「野崎村」から。お光(中村福助)の出のかわいいこと! 久松(中村扇雀(せんじゃく))と祝言を挙げられるうれしさに身も心も弾みきる純情。そこへ久松と情を交わしているお染(中村七之助)が訪ねてきて一転、身を引き尼となる決意をする意地。元気な村娘から悲恋の女へ。喜怒哀楽が筋肉化したお光が美しくはかなくたたずむ。福助、文句無しの代表作。続く「春興(しゅんきょう)鏡獅子」。弥生後(のち)に獅子の精の中村勘九郎の踊りが美しく立派。祖父、父から受け継ぐ華麗、勇壮な舞のさまざま。伝承という古典芸能の教科書を見ているよう。老女役で登場の92歳、中村小山三(こさんざ)に万雷の拍手。中村屋3代に仕(つか)える老優へ客席の心が温かい。14日から24日までは七之助が踊る。

 第2部。「髪結新三(かみゆいしんざ)」の坂東三津五郎が縦横無尽。主要各役経験済みで今回は新三。見どころの“髪結いシーン”と家主の長兵衛(坂東彌十郎(やじゅうろう))との“三十両のやりとり”が抱腹絶倒だ。長兵衛役の脂(あぶら)っこさを新三では抑え、からむ周囲の熱演を誘う作りが巧(うま)い。下剃勝奴(したぞりかつやっこ)に勘九郎、弥太五郎源七に中村橋之助。「かさね」は福助のかさね、橋之助の与右衛門。

 第3部。男と女のだまし合い。ミステリー、どんでん返し満載の「狐狸狐狸(こりこり)ばなし」。伊之助(扇雀)女房おきわを歴代最年少で演じた七之助。世俗の染みは薄いが奇妙な鮮度がある。締めは、三津五郎、勘九郎、彌十郎による人気舞踊「棒しばり」で。24日まで、東京・銀座の歌舞伎座。(劇評家 石井啓夫)