経済用語の説明について少し苦言を呈したい。7月26日付msn産経ニュースの「利益ため込みさらに加速 内部留保1年で6兆円増 大手30社、銀行が急拡大」という記事の中で、「内部留保」について、以下のような説明がある。
「内部留保は企業が稼いだ利益のうち賃上げや設備投資などに回さず内部に蓄積した現預金など」。これは会計用語の説明としては不正確であり、その結果、読者の経済政策に関する意見を間違った方向に誘導してしまう可能性がある。
第1に、「設備投資などに回さず内部に蓄積した現預金など」という説明は企業にそれだけ現金があり、設備投資をしていないかのように読めるが、実は、設備投資をしてもそれがそのまま会計上費用として計上されるわけではない。資産としてカウントされ、その設備の耐久年数に応じて徐々に費用化するため、いわゆる「内部留保」は設備投資を行った結果として設備になっている可能性も高い。
第2に、内部留保は賃上げに使われるものではない。というのも内部留保は、もともとその会社がどれくらい株主に配当してよいかの基準を定めるためのものであり、本来、株主に帰属する利益のうち配当せずに会社に残したものであるから、これまで株主に配当を出さなかったことの反映であって、賃上げとは無関係である。会社と従業員の給与の分配割合が高いか低いかを判断する基準は労働分配率と呼ばれるものであり、日本はおおよそ70%台中盤である。国際比較をしても決して低くない賃金を、日本の会社は払っている。