冒険家の三浦雄一郎さんの記者会見で、「年寄り半日仕事」という言葉を初めて聞いた。
いうまでもないが、三浦さんは今年5月23日、史上最高齢の80歳で世界最高峰のエベレスト(8848メートル)登頂にみごと成功した。酸素の薄い頂上に長時間滞在したことで下山途中に体力をかなり消耗したものの、無事帰国でき、6月6日に日本記者クラブ(東京・内幸町)で会見した。
その記者会見の中で三浦さんは「ゆとりある日程のおかげで、昼寝をしたり、本を読んだりできた。日本の古い諺(ことわざ)にある年寄り半日仕事が良かった」と80歳での登頂成功の秘訣(ひけつ)をかすれた声で語っていた。
三浦さんが実行した「年寄り半日仕事」とは、一日の登山行動を通常の半分にまで減らし、朝方、好きなミルクティーを飲んだ後に出発してお昼には目的地に着き、午後はゆっくりと体を休めるというものだった。
そういえば、無名山塾を創設した登山家の岩崎元郎さんが提唱した「ゆっくり歩き」も同じ考え方に立つと思う。
以前、親しい登山家からこう聞いたことがある。登山地図やガイドブックにあるコースタイム(標準時間)の1・5倍の時間をかけてゆっくりと登ったり下りたりするのが岩崎流で、体力が落ちてきた中高年でも無理なく登山ができ、それがいまの中高年登山ブームの礎となった。