遺伝子情報の解析など先端科学の進展で、いまや仏像など文化財もヒトと同じ様な恩恵に浴していると知って俄然(がぜん)、仏像たちへの親近感が増したのだった。
先日立ち寄った福岡県太宰府の九州国立博物館。「博物館科学」との名の下、人間ドックならぬ文化財ドックに精力的に取り組んでいる。X線CTスキャナーを使って仏像の脳(頭)や胃(胴体)などを定期的にチェック、治療(保存・修理)の効果を上げているのだ。
等身大の文化財を診断できるスキャナーは日本でも九博だけとあって、全国の博物館や神社仏閣から要望は多い。国宝阿修羅像も先年、初めてドック入り。主任研究員の鳥越俊行さんによれば「幸い五臓六腑とも健康でした」。鳥越さんは地質学が専門だが、目下、博物館学芸部文化財課で文化財の科学的調査や保全をリードしている。
スキャナーの精度は高い。約0・2ミリの材質まで識別でき、微細な亀裂も見逃さない。修理には同等の素材を作り対応する。
ドックのおかげで腹の中の御経や巻物など収蔵品が発見できれば昔の治療(修理)跡も分かる。時には高僧の歯が転がっていたことも。何千年と生きてきた仏像情報が初めて集積されるわけだ。