安積艮斎先生は、1860年11月21日、昌平坂学問所の官舎で、70年の生涯を閉じた。

昨年(令和2年)は、没後160年であった。

 

その記念として、艮斎の書を彫った碑を、安積国造神社表参道脇に建立した。

 

はじめ艮斎の漢詩を彫ろうと思った。しかしながら、本分は儒学者なので、思想的な言葉にした。

 

 

訓ずると、

「忠信にして(あざむ)かざるは是れ修身の要、理に(したが)ひて私無きは乃ち事を処するの本なり」

 

「忠」は「心を尽くすこと」である。

「信」は神に誓う語で、「誠」と同じである。ご神域にふさわしい。

 

現代語は、

「誠を尽くしてあざむかないことが、身を修めるときの要めであり、道理にしたがって私心を持たないことが、ものごとをとりさばくときの本である」

 

「忠信」を心がけて物事に対処すれば、おのずと正道を行くようになるので、万事うまくいく。

儒学は机上の学問ではなく、人道や治世をテーマとした合理的、実践的な思想である。

 

日本人が治世に儒学を取り入れた歴史は古い。

『古事記』下巻の仁徳天皇以降の政治にも、その様子があらわれている。「仁徳」という諡号からして、儒学である。

 

江戸時代の指導層の子弟も、皆儒学中心の教育を受けていた。明治維新は、儒学を学んだ人たちが決起した結果でもある。

 

そして、艮斎没後160年記念講演会を行った。4人の文学博士(早稲田大学)に、ご講演を頂戴した。

 

4月 歴史学 安藤優一郎先生

5月 中国文学 佐藤浩一先生

6月 近世和漢文学 徳田武先生  倫理学 小阪康治先生

 

その頃、新型コロナウィルス感染が広がりはじめていた。

4月7日、東京都等に緊急事態宣言が出た。

講師の先生は皆首都圏に居るので、外出自粛要請を受けてしまった。これでは来られない。

 

先生方には、ご自宅で講演を録音して送っていただいた。その音源を聴講するという形で、なんとか講演会を開催した。

演台の代わりに、艮斎詩の屏風を置いた。コロナの影響で、参加者は少なかった。

今思えばズーム使用という手もあったが、当時は使い方がわからなかった。

 

このときの講演は、安積国造神社ホームページ表紙からクリックして聴講できる。