目次 (1) 水戸神の伊勢祭祀
<1> 水戸神
<2> 水戸神の伊勢祭祀
<2-1> 水戸神(速秋津比古神・速秋津比売神)の南伊勢祭祀
<2-2> 伊豆乃売命(伊豆能賣)の中伊勢祭祀
<3> 参考:伊豆之賣の出雲祭祀
(2) 櫛八玉命の櫛玉命との同神説の下で櫛八玉命の祖を遡る
<1> 櫛八玉神・櫛玉命の同神説
<2> 櫛玉命の伊勢祭祀
<2-1> 櫛玉命の伊勢祭祀
<2-2> 水戸神の子:天之水分神・国之水分神の伊勢祭祀
<3> 参考:水戸神の孫・櫛八玉神の出雲祭祀
(3) 水戸神の孫・櫛八玉神は天孫族
(1) 水戸神の祭祀
本ブログは「櫛八玉命」を中心に据えて、櫛八玉命と櫛玉命との同神仮説の下で、伊勢祭祀を見ていきます。
亦、櫛八玉命が水戸神の孫であるとの「古事記」の指摘を受けて、推論を進める方針です。
「速秋津比古神・速秋津比売神の伊勢祭祀」については、先に、ご報告しておりますが、一部重複して、再掲します。 参照:伊勢の祭祀12 伊勢・出雲古神の謎 2023年03月30日
<1> 水戸神
「古事記」は次の二箇所に「水戸神」として三神を明記します。
1>「古事記」(伊邪那美の神産みの段):
海神・大綿津見神の次に水戸神が生まれ、その名は速秋津日子神・速秋津日売神だとします。
・二神の間には以下の四対八柱の神が産まれたともあります。
・沫那藝神・沫那美神
・頬那藝神・頬那美神
・天之水分神・国之水分神
・天之久比奢母智神・国之久比奢母智神
2>「古事記」(伊邪那伎の禊祓いの段):
伊邪那岐命が齎した黄泉の穢れから禍津日神二柱(大禍津日神、八十禍津日神)が生まれると、 禍津日神の禍を直す為に、直毘神二柱(神直毘神、大直毘神)と伊豆能売が生まれます。
これ故に、「水戸神」には速秋津日子神・速秋津日売神と伊豆能売神との三神が該当します。
注、前報「伊勢の祭祀12」では水戸神・伊豆能売神を見逃していたので、今回、この神を加えています。
<1-1> 速秋津日賣神と伊豆能売神との同神説
「倭姫命世記」と「中臣祓訓解」の二つの神道書は、速秋津日賣神と伊豆能売神とは同神だとしているとウイキペディアにあります。
そこで、「倭姫命世記」を読むと、祓戸三神は伊勢神宮に祀られていると記していますが、同神説は見出せません。伊豆乃売の記載は見い出せませんでした。
1 瀬織津姫尊 :内宮・荒祭官 祭神:八十枉津日神、別名・瀬織津比咩神
2 速秋津日子神:内宮・滝原宮 祭神:水戸神、名・速秋津日子神是也。
3 秋津比売神 :内宮・瀧原並宮 祭神:速秋津日子神妹、秋津比売神是也
4 気吹戸主尊 :外宮・多賀宮(豊受荒魂)祭神:伊吹戸主、亦名:日神直日大直毘神是也
「中臣祓訓解」は真言密教の立場から中臣祓いを読み解く姿勢ですから、「倭姫命世記」と同様に、祓い清めの四神(瀬織津姫尊・速秋津日子神・秋津比売神・気吹戸主尊)について密教に結びつけて解釈しています。その「中臣祓訓解」にも「伊豆乃賣」は見出せませんでした。
結局、両書共に「速秋津日賣神と伊豆能売神とは同神」だとする記事を見出しませんでした。
見落としているのかも知れません。
<2> 水戸神の伊勢祭祀
<2-1> 水戸神(速秋津比古神・速秋津比売神)の南伊勢祭祀
速秋津比売神・速秋津日子神は「伊邪那岐・伊耶那美の神産み」(古事記)により誕生し、水戸神と呼ばれます。そして、この二神は次の八神を生むのです。
沫那藝神・沫那美神、頬那藝神・頬那美神、天之水分神・国之水分神、天之久比奢母智神・国之久比奢母智神
この速秋津比売神・速秋津日子神二神は伊勢に次の様に祀られています。
参照:伊勢の祭祀12 伊勢・出雲古神の謎 2023年03月30日
第一が「滝原宮(別宮)」と「瀧原竝宮」です。
「滝原宮(別宮)」の現在の祭神は「天照大神御魂」(滝原宮)と「天照大神荒御魂」(瀧原竝宮)とされていますが、別説は「倭姫命記」にあり、そこでは次の様になっているのです。
祭神別説(倭姫命記):瀧原宮 ・・祭神:水戸神(別名:速秋津日子神)、
瀧原竝宮・・祭神:妹・神速秋津比賣神
第二が磯部神社(志摩市磯部町)で、この神社は合祀を重ね、今日に至っていますので、合祀社のいずれが速秋津彦命・速秋津姫命を祀っていたかは判りません。
合祀神はこの近在の祭祀だったと受け止め、磯部神社にそれを代表させると見ているのです。
・磯部神社(志摩市磯部町恵利原)祭神:49柱(内、不詳12柱)
祭神:八柱神・大幡主命・大山祇命・木花開耶姫命・猿田彦命・天鈿女命・豊受姫命・玉依姫命・
速秋津彦命・速秋津姫命・石凝姥命・櫛玉命・天目一箇命・臂摩乳命・脚摩乳命・金山彦命・
武甕槌命・天尾羽張命・大田命・天太玉命・彦火瓊瓊杵尊・少名彦命・手力雄命・鸕鶿草葺不合命・
伊弉冉命・速玉大神・家都御子大神・神倭磐余彦命・譽田別尊
更に、少なくとも、次の三社が速秋津彦命・速秋津姫命を祀っていると見られますので、南伊勢に合計四社、滝原宮・並び宮を加えると、合計六社の速秋津彦命・速秋津姫命祭祀を見るのです。
・大口神社(伊勢市竹ヶ鼻町)祭神:速秋津彦命・速秋津姫命・河神・水神
・宇治神社(伊勢市宇治今在家町)合祀・水神社祭神:速秋津日子神・速秋津比女神
・並大神社(度会郡大紀町崎)祭神:速秋津姫命・武速須佐男命・譽田天皇・宇迦之魂命・加具都智命・
大山祗命・木花開耶姫命・金山彦命
<2-2> 伊豆乃売命(伊豆能賣)の中伊勢祭祀
伊邪那岐命が黄泉から帰って来た際、黄泉の穢れから禍津日神二柱(大禍津日神、八十禍津日神)が生まれ、その禍津日神がもたらす禍を直すために、直毘神二柱(神直毘神、大直毘神)と伊豆能売が生まれたと、「古事記」にあります。
伊豆乃売命(伊豆能賣)の神格は「禍を直す」浄めなのです。但し、「日本書紀」にはこの神の記載がありません。
「延喜式神名帳」は、古代律令制の許で神祇官が作成した官社の一覧表を指し、927・延長5年にまとめられた「延喜式」の巻九・十のことです。
当時「官社」に指定されることは大変な名誉であり、その古さと格式、祭神の由緒ある神格の故に、「式内社」と云うだけで、一種の社格となっていた筈です。
ですから、伊勢の式内社(全232社)と云われるだけでも大した事なのです。
その伊勢の式内社二社に伊豆能売神が祀られています。敢えて云えば、この二社は中伊勢に鎮座しており、水戸神(速秋津彦命・速秋津姫命)は南伊勢に鎮座するのと比較されます。
・畠田神社(三重県多気郡明和町中村)式内社 伊勢國多気郡 畠田神社三座
祭神:火之迦具土命 埴安比賣命 豊宇氣比賣命 饒速日命 伊豆乃賣命 入船姫命 宇迦魂命 土之御祖命 八柱神
彌津波能女命 宇麻志摩治命 火産霊命 大日孁命 菅原道眞 大山祇命 蛭子命 品陀和氣命 建速須佐之男命
合祀:式内社 伊勢國多気郡 守山神社 濱田鎮座 御山御前神社
石田神社 養川(養田)鎮座 石田神社
佐伎栗栖神社二座 志貴鎮座 佐伎栗栖神社
伊呂上神社 八木戸鎮座 伊呂上神社
宇留布都神社 内座鎮座 宇気比神社
國乃御神社 根倉鎮座 國之御神社
櫃倉神社 根倉鎮座 根倉神社
竹佐々夫江神社 根倉鎮座 根倉神社
伊勢國度會郡 荻原神社 根倉鎮座 根倉神社
由緒:創祀年代は不詳だが、式内社・畠田神社三座に比定される古社。
・加良比乃神社(三重県津市藤方森目)元伊勢伝承地の一。伊勢国・安濃郡
祭神:御倉板挙神、伊豆能売神、
天照皇大御神、大山祇神、大物主大神、水波能売神、宇迦之御魂神、建速須佐之男命。
配祀:八柱神、天児屋根命、応神天皇
由緒:当社は二柱を奉斎創建した。垂仁朝、皇女倭姫命が天照大御神を奉戴し、廻歴の際、神殿を建て
当地に四年滞在した。「壱志藤方片樋宮」(皇太神宮儀式帳)、「阿佐加藤方片樋宮」(倭姫命世記)
の伝承地。倭姫命が天照大御神を奉戴して「片樋宮」を建立した跡地に「御倉板舉神」と「伊豆能
賣神」を祭祀したのが起源とされている。伊豆能売の名を冠しない式内社は現存する。
<3> 参考:伊豆之賣の出雲祭祀
出雲にも神魂伊豆之賣神社(出雲国出雲郡)が鎮座し、現在は、伊努神社に合祀され、祭神は確定されていません。社名からすると、ここに伊豆之賣は祀られていた節があります。
・神魂伊豆之賣神社(出雲国出雲郡)
祭神:不詳、
由緒:江戸時代に「日妻大明神」(日乃都麻明神)と称されていた神社で、
祭神は、高産霊神、速秋都比女命、伊豆乃賣神の諸説がある。
「延喜式神名帳」以外にこの神魂伊豆之賣神社について記載した史料はなく、これでは伊豆能売を祀る神社は出雲に現存しないことになりかねません。
だが、社名は伊豆之賣の祭祀をはっきりと示していますので、何らかの歴史事情がその神名を遺し伝えなかったものと見ます。
(2) 櫛八玉命の櫛玉命との同神説の下で 櫛八玉命の祖を遡る
以上の様に、水戸神は速秋津比古神・速秋津比売神と伊豆之賣とのいずれにも該当します。だが、速秋津比古神・速秋津比売神と伊豆之賣との同神説は、ウイキペディアのの云う様には、確定出来ていません。
ここでは、それを確定出来ぬまま、水戸神の孫神が櫛八玉命だとする「古事記」の伝えを尊重して話を進めます。
<1> 櫛八玉神・櫛玉命の同神説
「櫛」は「奇クシ」だと云い、櫛玉は「奇魂」に通じ、「奇魂」は仁愛(和魂)を構成する二要素の一である智恵に他なりません。
出雲・伊勢の神々の中に出現する「櫛」のついた神々の神格は「智」なのです。
参考:「出雲国造神賀詞には加夫呂伎熊野大神櫛御気野命と奉称し、国造奉斎の神の首座に座し、「出雲風
土記」の意宇郡出雲神戸条に「伊弉奈枳の麻奈子に座す熊野加武呂乃命と(中略) 二所の大神等に依
し奉れり」とあり。
先に「伊勢津彦の謎4」では「櫛瓊(玉)命と櫛八玉命とは区別出来ない」と見ました。
それは、酷似する名前を持ち、且つ、同時代の天穂日命系神人であるが故です。
亦、櫛八玉命は大国主命の「国譲り」に際して登場する神人である点が留意されます。
櫛玉命は、出雲建子命を称する伊勢津彦と同一視され、且つ、天夷鳥命(出雲建命)の子神であるところから、櫛八玉命との同神性が推定されるのです。
ここで「伊勢津彦の謎4」で作成した図表1を引用します。
図表1の系譜では、第三世代の櫛瓊命・櫛八玉命は同じ場所に位置づけています。
そこでは、天穂日命の孫・櫛八玉命は、第三世代として出雲に祀られ、伊勢で祀られた櫛玉命はこの櫛八玉命と同神かその同世代の血縁神と見ているのです。
詳細は「伊勢津彦の謎4」をご覧頂くとして、ここではそこでの推論を要約しましょう。
1櫛田神社の原祭神は櫛玉命だった。
2櫛田神社は出雲国造家との遙かなつながりを想わせ、図表1は中々の歴史を秘めています。
・「櫛」系の名前は津狭ツガリ命の次代・5櫛瓺前命から8櫛田命まで続き、遠祖・櫛御食野命(熊野大社祭神ー
松江市)とのつながりを思わせるばかりか、伊勢国の櫛玉命(櫛田神社祭神ー松阪市)やその祭祀社名・櫛田社
への繋がりを推測させるからです。
・図表1の伊佐我命の直系裔に「櫛」のつく神人名が5~8代と続くことは櫛玉命と無縁ではないと見て、この
伊佐我命裔5~8代を、敢えて、図表1の櫛玉命の後裔に組入れて見ました。
・それは、一つの見方を提供するためで、絶対的な主張ではありません。
3上古伝承は、その伝承出所により「紛れとぼやけ」が在ります。次の如くです。
・伊佐我命は出雲建子命(伊勢津彦)と兄弟 ・・出雲国造家系図ーウイキペディア「出雲国造」
・天夷鳥命の子・櫛瓊命の亦名が出雲建子神・伊佐我神・・「出雲国造伝統略」(千家武主謹編)
・伊佐我命の別名:伊勢津彦・出雲建子命・櫛八玉命 ・・東國諸国造(伊勢津彦裔)
4そこで、「出雲建子神の伊勢三族」の仮説を設けて、上古伝承のぼやけの解消を図ったのです。
仮説:出雲建子神は、伊勢に渡来すると、伊勢三族に分かれた。
伊勢三族とは、伊佐和登美、櫛玉命、伊勢津彦を夫々の祖とする三族です。
伊勢三族は、これら三祖を掲げて、夫々の祭祀社を持ったと見ます。
櫛八玉命と櫛玉命との関係も、「出雲建子神の伊勢三族の仮説」に似せて、類似する神々を包括的に捉まえようと考えます。
系譜・伝承には、伊佐我命が伊勢津彦と同神の場合と、兄弟神の場合とがある事を留意して、この判断は、上古の系譜を理解する時に、厳密な詰めして情報の不安定性を指摘するのみに終わらせないようにする事を目指し、不確かな情報を切り捨てず、包括的に取り扱う手法です。
要するに、「二、三の異なる説も合わせて考察に臨む」のです。
・どうも訳の分からない手法ではあります。老耄が進む中、頭の中が整理出来ていません。
今後、「ぼやけ」処理の手法手順を明らかにし、表現を練ります。
「伊勢津彦の謎4 出雲建子神三族の祭祀」では、ぼやけて捉えにくい神々を「伊佐我命=出雲建子神=櫛瓊命(天夷鳥命の子)=伊勢津彦・櫛八玉命」として同神扱いした後、その扱いは「巾を付けて見るべきもの」として、これら諸神を「伊勢三族」仮説に収めて考察すると、その試みはある程度の成功して「伊勢三族」が「伊佐和登美・櫛玉命・伊勢津彦(建角身命・神狭命)」として見えてきたのです。これは完全な真実ではありませんが、古代の疑似真実と云えるでしょう。
兎に角、櫛八玉命と櫛瓊(玉)命とは同神と見ると、新しい歴史景色が見えてきます。
但し、これは、同神とする根拠を欠きますので仮説です。この仮説の下で話を進めるのです。
<2> 櫛玉命の伊勢祭祀
<2-1> 櫛玉命の伊勢祭祀
櫛八玉神が櫛玉命と同神ならば、水戸神の孫は伊勢に祀られている可能性が推定されるので、調べると、その伊勢の祭祀社は、少なくとも、三社あると云えます。
・小山神社(桑名市多度町小山 )祭神:櫛玉神・大山津見神・火之加具土神
・櫛田神社(松阪市櫛田町) 祭神:大若子命・櫛玉命・市杵島姫命・天忍穂耳命・須佐之男命・熊野大神
・櫛玉宮(伊勢市、上社境内) 祭神:櫛玉命
追記・2023年10月11日:投稿直後ですが、次報・大年神の調べに進み、大きな漏れを発見したので、追記します。
・朝熊神社(伊勢市朝熊町櫻木)は伊勢國度會郡の式内社で、皇大神宮摂社(内宮第一の摂社)と云う
格式を持ちます。その祭神は櫛玉命、保於止志(大年)神、桜大刀神、苔虫神、大山祇、朝熊
水神、だと「倭姫世記」は伝え、儀式帳もこれを追認しています。
・従って、「少なくとも三社ある」とした上記の記述は四社に書き換え、櫛玉命の伊勢祭祀の
重みを実感したことをお伝えします。
この他に一社・宇賀多神社(志摩市)の場合は、合祀神の一が櫛八玉命となっています。
・宇賀多神社(三重県志摩市阿児町鵜方)の主祭神は八柱神だが、合祀神の一柱に櫛八玉命あり。
亦、櫛玉命の裔とされる建角身命が伊佐和神社に祀られているので、参考例として記します。
・伊佐和神社(松阪市射和町)式内社 伊勢國多氣郡 伊佐和神社
祭神:建津奴身命 伊弉諾命 天之水分命 水波女命 火産霊日神 宇賀之御魂神 大山祇命 大山祇荒魂神
大物主命 天之手力男命 猿田彦大神 道之長乳磐命 牛頭天王信仰(建速須佐之男命&八柱神)
・後世祀:菅原道眞公 柿本人麿公 不詳四座
・参照「神社覈録」:伊佐和は假字也 祭神:伊佐波止美命、又は伊勢津彦命、射和村に在す。
伊勢には、櫛玉命の祭祀のみならず、櫛八玉命の祭祀もある事を確認できたのですが、出雲には櫛玉命(=櫛瓊命)の祭祀はなく、櫛八玉命の祭祀があるのみです。
この意味は、櫛八玉命は、伊勢から出雲に出向き、国譲りに際する諸行事に参画した後、伊勢に戻って、櫛玉命を名乗ったのではないか、と見ます。
<2-2> 水戸神の子:天之水分神・国之水分神の伊勢祭祀
速秋津彦命・速秋津姫命の二神は、「古事記」によれば、次の八神を生みます。
・速秋津彦命・速秋津姫命の神産み:沫那藝神・沫那美神・頬那藝神・頬那美神・
天之水分神・国之水分神・天之久比奢母智神・国之久比奢母智神
その内の二神(天之水分神・国之水分神)が伊勢に八社も祀られています。
・大谷神社(いなべ市員弁町大泉)祭神:水分大神・天兒屋根命・保食神
・千種神社(菰野町大字千草) 祭神:天照大神・國之水分神・建速須佐之男命
・波多神社(津市一志町八太) 祭神:宇賀神・天水分神・稲倉魂神
・葉生田神社(松阪市法田町) 祭神:天之御中主命・國狹槌命・水分神、猿田彦神・神魂命、
速須佐之男神、天忍穂耳命、天長白羽命、宇受女命、
屋船命、大日女命、豊宇気毘売命、櫛御気野命、
水波能女神、級長津彦命、級長戸辺命、誉田別命
・伊佐和神社(松阪市射和町) 祭神:建津奴身命 伊弉諾命 天之水分命 宇賀之御魂神
大山祇命 大山祇荒魂神 水波女命 他18神
・伊勢庭神社(松阪市伊勢場町)式内社 伊勢國多氣郡 牛庭神社
祭神:天忍穂耳命、田心姫命 瑞津姫命 市杵島姫命、誉田別命 水波能女神 水分神
・雨宮八幡社(多度大社境内、桑名市多度町多度)祭神:天之水分神 國之水分神 品陀和氣命
・若宮神社(瀧原宮境内,度会郡大紀町滝原)祭神:水分神
<3> 参考:水戸神の孫・櫛八玉神の出雲祭祀
出雲での櫛八玉命の祭祀は次の二社にあります。
・火守神社(出雲市宇那手町、神門郡)
祭神:櫛八玉命(別名・櫛八玉比女命)
・古事記:出雲国多芸志小浜の出雲大社の膳夫となり館を建て、土器を作り、火を切り出し、
天御饗を献上して使者を饗応し、交渉が円満に成立するように尽力したと記す。
・料理の祖神:全国の調理・飲食・食品関係者からの参拝が多い。
・湊神社(出雲市大社町中荒木、式外社 支豆支社 出雲国風土記、出雲大社境外攝社)
祭神:櫛八玉神
・志布比神社(京都府京丹後市網野町浜詰大成)式内社 丹後國竹野郡 志布比神社
祭神:櫛八玉比女命 鹽椎神 若宮大明神 豊受賀能咩命 御来屋大明神 木花開耶姫命
・御門主比古神社(石川県七尾市鵜浦町)式内社 能登國能登郡 御門主比古神社
祭神:御門主比古神
合祀:櫛八玉神 注:社号標・式内 御門主比古神社の横に、「阿於社」とあり、
阿於谷に在った阿於大明神(櫛八玉神)を合祀したと見る。
・賣布神社(島根県松江市和多見町)式内社 出雲國意宇郡 賣布神社
祭神:速秋津比賣神
合殿:五十猛命 大屋津姫命 抓津姫命
摂社神:櫛八玉神
・出嶋神社(松江市西浜佐陀町)
祭神:櫛八玉命、瓊々杵命、木花咲耶姫命、彦火火出見命、豊玉姫命、葺不合命、玉依姫命
<2-3> 水戸神から櫛玉命までの伊勢祭祀のまとめ
図表2Aは、水戸神から櫛玉命までの伊勢祭祀をまとめています。
図表2Bはそのバックデータです。
<3> 参考:水戸神の孫・櫛八玉神の出雲祭祀
出雲での櫛八玉命の祭祀は次の四社にあります。
この内、松江市の売布神社は水戸神・速秋津比賣神とその孫・櫛八玉神との共祀である点が
注目されます。
・火守神社(出雲市宇那手町、神門郡)
祭神:櫛八玉命(別名・櫛八玉比女命)
・古事記:出雲国多芸志小浜の出雲大社の膳夫となり館を建て、土器を作り、火を切り出し、
天御饗を献上して使者を饗応し、交渉が円満に成立するように尽力したと記す。
・料理の祖神:全国の調理・飲食・食品関係者からの参拝が多い。
・湊神社(出雲市大社町中荒木、式外社 支豆支社 出雲国風土記、出雲大社境外攝社)
祭神:櫛八玉神
・賣布神社(松江市和多見町)式内社 出雲國意宇郡 賣布神社
祭神:速秋津比賣神、 合殿:五十猛命 大屋津姫命 抓津姫命
摂社神:櫛八玉神
・出嶋神社(松江市西浜佐陀町)
祭神:櫛八玉命、瓊々杵命、木花咲耶姫命、彦火火出見命、豊玉姫命、葺不合命、玉依姫命
(3) 水戸神の孫・櫛八玉神は天孫族
改めてご紹介すると、「古事記」の葦原中国平定(国譲り神話)の段には、膳夫として大国主命に贄を奉じた櫛八玉命は水戸神の孫だと記されています。
注「古事記」・葦原中国平定(国譲り神話)の段:
国譲りを承諾した大国主神のために杵築大社を造営し、水戸神の孫・櫛八玉神は膳夫となって鵜に化身して海底
に潜り、海底の粘土を使って天八十毘良迦(天八十平瓮)を作り、海藻や魚を神饌として大国主神に献じたとされ
ています。
この櫛玉命が櫛八玉神と同神とすると、櫛八玉神は「水戸神の孫」(古事記)ですから、次の系譜が成立します。
水戸神 ・・速秋津彦命・速秋津姫命、亦は、伊豆能賣
↓
天水分神・国水分神
↓
櫛玉命=櫛八玉命
<1> 「櫛八玉命は水戸神の孫」の意味
上記の記事・「葦原中国平定(国譲り神話)の段」の意味する処は大きいです。
先ず、櫛八玉命が国譲りの締めくくりの段階で「膳夫」と云う重役を果した事は櫛八玉命が天孫族の一神であることを示唆します。
多分、櫛八玉命は天夷鳥命の子神で、天穂日命の孫神なのでしょう。
しかも一方では、櫛八玉命は水戸神の孫だと「古事記」は記すのです。
両者を総合すると、水戸神は女性で、天穂日命を夫君とした女神だと思われます。
前回は、神魂カモス命が天穂日命の妻神で、二人の御子が伊努比賣と天夷鳥命だとする見方をご紹介しました。
今回は「伊豆能賣」*が天穂日命の別な妻神で、その御子が櫛八玉命だと推定するのです。
*但し、伊豆能賣ではなく、秋津姫命かも知れません。これは現段階では判らないのです。
「櫛八玉命は水戸神の孫」の意味は、中々に大きいのです。
<2> 不審な「妻神隠し」
天穂日命一族の系譜に女(妻)神が登場しないのは不審です。
天穂日命、天夷鳥命、伊佐我命の三代の妻神を記したネット情報は見出しませんでした。
特に、出雲国造家の上代系譜は女神が記されていません。
この点を不審とせずに、素直に「神話読み」を続けることは批判されなければならないでしょう。
ここでの推理はこれまでの「神話読み」の通説にとっては異説ですが、時には、「穿ち読み」が必要だと主張したいです。不十分ですが、・・。
素直に読み過ごすと、諸神の関係性はバラバラのままですが、推理を働かせる「穿ち読み」がうまく働くと、諸神の関係性が見える事があるのです。
須佐之男命・大国主命系列でも、天火明命・物部・尾張氏系列でも、女(妻)神を明記しています。
それなのに、天穂日命系列のみが女(妻)神を明記しないのか、紀記の編集上、「何か強い姿勢」が働いたのでしょうか。
紀記の伝える「国譲り神話」と出雲国造家から出された「出雲国造神賀詞」の国譲り神話とで天穂日命の評価が異なる事は夙に知られています。何か真相は隠されている憾みを感じさせます。
何故、天穂日命系列は女神を排除するのか、は今後解くべき大課題です。
伊勢津彦の謎シリーズでは、天穂日命の妻神として神魂命(前報)と秋津姫命(本報)を取り上げましたが、今後の更なる検討が必要と考えます。お読みの皆様のご批判・ご助言をお待ちします。