目次1 「虚空」論
             <1> 「虚空」論
             <2> ヤージュニャヴァルキヤの洞察
     <3> 虚空(第五要素アーカシャ)
     <4> 虚空蔵菩薩           注:菩薩bodhisattvas
             <5> 五智如来
             <6> 空海の「虚空蔵求聞持法」修行

(1)  「虚空」論

 伊勢神宮の「五色の絁」の源を探る内にインドの「五大(世界を構成する五大要素)」が仏教に採り入れられた事を知ります。       参照:伊勢の祭祀8 伊勢神宮の「五色の絁」の源を探る+
                                      伊勢の祭祀9 伊勢神宮の「五色」とインドの「五大」


 インドの基本的な世界観=「世界の成り立ち」論は「世界を構成する元素は何か」から始ります。
 初期の認識は「三大(地・火・水)」でした。それが「四大(地・火・水・風)」となり、「虚空」が加えられて「五大」となります。

 「四大(地・火・水・風)」までは感覚器官で認知できたのに、「虚空」(第五要素)になると、その内容は思惟・抽象性の高いものとなり、「四大」までの認知方法とは次元が変わります。

 この「四大」の「世界の構成要素」思想は、前報で「インド神話」に淵源ありと推定し、確かめると、インド神話の神々(地母神・水神・火神・風神)が浮上したのです。
                     注:地母神プリティヴィPrithvi、水神ヴァルナVaruna、火神アグニAgni、風神ヴァユVayu、

 だが、第五要素アカーシャは対応する神名がありません。強いて挙げれば「天空神」です。
                                                                       注:宇宙空間アカーシャAkasha、天空神Dyaus 

 「第五要素・虚空」は「四大」とは次元が異なる要素なので、別論すべきだと考え、前報では採り上げず、本ブログで採り上げる次第です。

  次図は、Akashaアーカーシャを含む「五大」の確認のために、前報から流用です。

 

<1> 虚空

 「虚空」の原語はAkashaアカーシャ若しくはアーカーシャです。
 Akashaアカーシャは「物質世界の全ての基礎と本質」を意味し、「四大」を説明する第五要素として創案され、中国で「虚空」と名付けられた後、・日本に伝来したのです。
     ・Akashaアカーシャは「パンチャマハブータ(五つのグロス要素)」の一つ。
            ・Akashaアカーシャの直訳はヒンドゥー教で「上空」亦は「宇宙」の意。
                      ・英語ではSpace「宇宙・空間」、日本語では「虚空」とされています。
              ・日文ウイキペディアの「五大」では、「「四大」に虚空
(アカーシャ)を加えて 「五大」とする思想が現れ

                       た」として、Akashaアカーシャは「虚空」を指すとします。
    ・ヴェーダのマントラ「pṛthivyāpastejovāyurākāśāt」は、基本的な5グロス要素の出現順序を示す。
        即ち、 1「宇宙空間」・・最初に空間Spaceが現れ、
              2「風・気」・・・そこから空気Airが現れ、
                3「火」・・・・・次に火Fireやエネルギーが、
                4「水」・・・・・そこから水Waterが、
                5「地」・・・・・そしてそこから大地Earthが現れた。


 この考え方では「存在という現象も含めて、あらゆる現象はそれぞれの因果関係の上に成立つ」(*)と云います。                        参照:伊勢の祭祀9 伊勢神宮の「五色」と「五大」 2023年02月11日
                                                                                                        *(出所)  アーカーシャ
(ウイキペディア)

    ここで云う「あらゆる現象・存在」とは「四大」のことだと理解します。
    そして、「四大」とは地・火・水・風(気)を云い、「虚空」が「第五要素として採り入れられて「五大」となるまではこの世界はこの「四大」から成ると理解されていたのです。

 Akashaは英語ではSpace(宇宙・宇宙空間)と訳されています。言葉の直訳はその通りだとしても、

その「伝えようとする意味」が問題です。Spaceでは表面的な意味しか分かりません。

 日本の大乗仏教(密教を主とする)では、その真の意味を「智」だと解釈しています。

<2>  ヤージュニャヴァルキヤの洞察

 「虚空」の概念は何時頃生まれたのかは判りませんが、古くからあったようです。

 ヤージュニャヴァルキヤYājñavalkyaは、「四大」にAkashaアカーシャを加えて、世界の重要要素は「五大」だとした人だと云われています。
       (出所)  ヤージュニャヴァルキヤ・梵我一如(日文ウイキペディア)、Yajnavalkya - Wikipedia、

  図表1     ヤージュニャヴァルキヤの二、三の思想を覗見する
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 ヤージュニャヴァルキヤ:
   ・「梵我一如の哲理」の先覚者として著名。
   ・ヨーガ哲学の元祖。
   ・王仙ジャナカと共に後の仏陀の思想、仏教の道を用意したという説あり。
 *「梵我一如」:梵と我が同一であること、亦は、これらが同一だとを知って、永遠の至福に到達しようと
          すうとする思想。古代インドにおけるヴェーダの究極の悟りとされる。
                    ・梵(ブラフマン):宇宙の全てを司る原理は不滅
              ・ブラフマー:古代インドでは「万物実存の根源=ブラフマン」を神格化したもの。
                    ・ヒンドゥー教では創造神ブラフマーはヴィシュヌ(維持神)、シヴァ(破壊神)
                     と共に三大神を構成す。
       ・我(アートマン):個人を支配する原理・・梵我一如ならばアートマンも不滅のもの。
                 肉体が死んでも、アートマンは永遠に存続し、アートマンが死後に新し
                           い肉体を得る。輪廻の根拠でもある。、漢訳では「真我」。
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  (出所) ヤージュニャヴァルキヤ
(ウイキペディア)

 ヤージュニャヴァルキヤYājñavalkyaは古代インドのウパニシャッド哲学を解した最大の哲人と云われ、凡そBC750~BC700年頃に生きた人です。ブッダよりも古い時代の人です。

 ヤージュニャヴァルキヤYājñavalkyaは、「存在の一切」とは「風・空間・ガンダルヴァ・太陽・月・星・神・インドラ・プラジャーパティ・ブラフマン」だとし、これら全てを包摂するのがアカーシャであり、「Akashaとは存在の一切を統括する法則」だとしたのです。


 インド哲学では、長い間、「四大シダイ(地、水、火、風)が物質の根源だとされていたのです。
 この「四大」を産出し包括するために概念的に加えられた空間が「Akasha虚空」なのです。

 こうして、「虚空Akasha」は、第五要素として四大に加えられ、「五大」を構成する、と云う考えはヤージュニャヴァルキヤYājñavalkyaが提示したものだ、と云います。
                                                    (出所)   アーカーシャ(ウイキペディア)

 ヤージュニャヴァルキヤの「存在の一切」(一切法)とは図表2の10を指すと云います。

  ここに提出されている「存在の一切」は図表2で説明するように「インド神話の神々」です。 

  これらの「存在の一切」は、大幅に簡略すれば「四大」に収束するとも云えますが、ヤージュニャヴァルキヤYājñavalkyaの時代には、「四大」に絞られず、より詳しく具体的に神々がリストされていた、と見ます。

  図表2   「一切法」存在の一切)とは何か(ヤージュニャヴァルキヤ)
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  1風  ヴァニャ Vayu  :風神
  2虚空アーカーシャAkasha:天空神Dyaus?
  3ガンダルヴァgandharva:インド神話でインドラ(帝釈天)またはソーマに仕える半神半獣の奏楽神団で

                大勢の神の居る宮殿の中で美しい音楽を奏でる事に責任を負っている。
       ・ソーマ(インド神話の神々の飲物・神酒)の守護神であるとも伝わる。ソーマ
       ・アプサラスの夫(女性のガンダルヴァも存在)。
         ・ガンダルヴァの演奏は自然界の中のラーガ()として見出される。
                    ・外見:頭に八角の角を生やした赤く逞しい男性の上半身と、黄金の鳥の翼と下半身を持った姿
                    ・その大半が女好きで肉欲が強いが、処女の守護神でもある。
                  ・酒肉を喰らず香りを栄養とする為に訪ね歩くため、食香・尋香行と呼ばれ、身体からも香気を発す
                  ・香気と音楽は非常に微かでどこから発しているのか判らないともされる。
                  ・その身から冷たくて濃い香気を放つため、サンスクリットでは「変化が目まぐるしい」という意味
                   魔術師も「ガンダルヴァ」と呼ばれ、蜃気楼の事をガンダルヴァの居城に喩え「乾闥婆城」
                   (gandharva-nagara)と呼ぶ。
  4太陽/ 5月/ 6星/ 7神
  8インドラIndra:バラモン教、ヒンドゥー教の神名。本名(梵:śakro devānām indraḥ、シャクラśakra)、
            「神々の帝王であるシャクラ」の意。
            ・デーヴァ神族に属する雷霆神、天候神、軍神、英雄神。
                    ・ディヤウスとプリティヴィーの息子。「リグ・ヴェーダ」では最も中心的な神
            ・ヴァルナ、ヴァーユ、ミトラと共にアーディティヤ神群の一柱とされる。
            ・「ラーマーヤナ」には天空神として登場する。
               ・漢訳:因陀羅・釋提桓因・帝釈天(仏教)・天帝釈・天主帝釈・天帝・天皇と書かれる。
  9プラジャーパティprajāpati:インド神話に登場する宇宙万物の創造神たち。「造物主・生類の主」の意。
                        ・インドラ、サヴィトリ、ソーマ、ヒラニヤガルバなど創造神を指す。
                        ・「ブラーフマナ」ではブラフマー神を指し、更に、ブラフマー神が生み出した聖10人を

              「プラジャーパティ」と呼ぶ。
                        次のリストは[プラジャーパティ]の10人説のリシ(聖仙・賢者、宇宙万物の創造神)。
                   ・○のリシは7人説による。この他、8人説・10人説・16人説あり。
    ○91アンギラス(Angiras):ブラフマーの心から生まれたリシ(聖仙、賢者)の一人。
                  その名は「敵対的な呪文」、「黒い呪文」を意味し、本来は大昔行われた
                 「火の儀式」を主催する祭官の名称だったと云う。
        ○92アトリ           (Atri):古代インドのリシの一人。サプタルシ(七聖仙)の一人。
         93ブリグ       (Bhrigu):神々にソーマ(絞り汁)を奉納する儀礼を司るブリグ族の開祖。
    ○94クラトゥ      (Kratu):
      ○95マリーチ    (Marichi):
       96ナーラダ    (Nārada):全ての賢者の王を意味し、過去・現在・未来に関する知識の恩恵に預かる。

      ○97プラスティヤ(Pulastya):
      ○98プラハ       (Pulaha):ヒンドゥー教の神話に登場する人。ブラフマーの子
                                              最初のマンヴァンタラ(創世期)のサプタルシ二人の内の一人。
         99プラチェータス(Prachetas) or ダクシャ (Daksha):
    ○910ヴァシシュタ(Vasishtha):
 10ブラフマンbrahman:バラモン教の神が仏教に取り入れられ、仏法の守護神とされ、梵天と称された。
  仏教では、梵(ブラフマン)が人格を伴う梵天として登場するが、本来のインド思想では自然そのもの、或いは

    遍在する原理・真理を指していた。
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 (出所) ウイキペディア「アーカーシャ」+英文wikipedia による10リサの検索


 亦、一切法とは五蘊(=色・受・想・行・識)だ、とも云います。
  どうも仏教語は経典訳者別に、或いは、教派毎に、異なり、錯綜としています。

                        ・五蘊:巴語パンチャッカンダpañca-kkhandha、梵語パンチャ・スカンダpañca-skandha

 

                 

<3> 虚空(第五要素アーカシャ)

  ここでは前項「ヤージュニャヴァルキヤYājñavalkyaの考察」の繰り返し・確認を行います。

  「虚空」とは「物質の根源・四大(地、水、火、風)を産出し包括するもの」とされ、それは別に表現をすれば「存在の一切を統括する法則」だと云います。                (出所)アーカーシャ(ウイキペディア)

  「虚空」は「五大」の第五要素アーカシャです。
    ・第五要素:虚空アーカーシャ
       ・虚空:梵語ākāśaの漢訳。大空・空間・間隙などを意味し、西洋哲学の「天空」に相当。
         古来印度哲学では万物が存在する空間を意味する。実体として重要な概念の一つ。
       ・物質の根源・四大(地、水、火、風)を産出し包括するものとして「概念的に加えられた空間」

                        を意味する。
        ・単に「空」と訳されることも多いが、この場合は「アーカーシャ」ではなく「シューニャ」                                       (梵語: शून्य, śūnya)を意味する場合があり、両者は意味する由来がまったく異なる。
        ・「ウパニシャッド」においては人間の内面や事物の本質を意味する「アートマン」
(元の言葉は「呼吸」)

                       とされたが、ヤージュニャヴァルキヤは「風・空間・ガンダルヴァ・太陽・月・星・神・インドラ・

                       プラジャーパティ・ブラフマン」を包摂するもの、すなわち存在の一切を統括する法則とした。
                    ・地・水・火・風の「四大」に虚空を加えて「五元素」と云う。
        ・これに五感(香・味・色・触・声)を関連づけるサーンキヤ学派やバイシェーシカ学派の思想の許では

                     「虚空」が聴覚と結びつき,音声は虚空の属性とされた。
                 (出所) ウイキペディア「アーカーシャ」、コトバンク「虚空」、Wikipedia「Akasha」


   物質の根源「四大シダイ」とは「存在する一切」(一切法)に他なりません。
 それを「包括するもの」とは「存在」を支配する法則だと云うのです。そう理解します。

 「一切法」(存在する一切)はバラバラに存在するのではなく、ある法則性に従って関係を保ちつつ存在している、と云っている、と理解します。

<4> 虚空蔵菩薩

  「虚空」を冠した菩薩bodhisattvasが虚空蔵菩薩です。
   参考:虚空蔵菩薩の原語のアーカーシャ・ガルバĀkāśa・garbhaの前半部分はアーカーシャAkashaが                       「虚空」に当ります。後半ガルバgarbhaは「胎の部屋」の原意が「蔵」で、Ākāśaとgarbhaと      

                  を合わせて「虚空蔵」なのです。

 「虚空」とは地・水・風・火に次ぐ第5の要素としての無限に拡がる空間を意味し、その妨げのない空間には広大な智慧が満ちているとされます。

  虚空蔵菩薩は、この「虚空」の含み持つ意味の故に、「知恵の菩薩」、或いは、「広大な宇宙のような無限の智恵と慈悲を持った菩薩」と云われます。(出所) ウイキペディア「虚空蔵菩薩」

  そこで、ここでは虚空蔵菩薩に関する諸情報を図表4に総括します。ご覧下さい。

  図表4    虚空蔵菩薩に関する基礎知見
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 1虚空蔵:はアーカーシャ・ガルバĀkāśagarbha(虚空の母胎)
     ・虚空蔵菩薩の化身・象徴は「明けの明星」、明星天子、大明星天王とも呼ばれる。
     ・明星天子は明星天と略されて呼ばれ、で普香天子、星天子の異名もある。星を神格化した神で虚空蔵菩薩

                の変化身とされる。
     ・虚空蔵菩薩は、五つの智恵を表す「五智如来の変化身」とされる。
     ・知恵の菩薩として、人々に知恵(智恵・知識・記憶)を授ける。
  2 修法「虚空蔵求聞持法」は一定の作法に則って真言を百日間かけて百万回唱える。
     ・これを修した行者は、あらゆる経典を記憶し、理解して忘れる事がなくなる。
       ・空海は室戸岬の御厨人窟(洞窟)に籠もって「虚空蔵菩薩求聞持法」を修した、と云います。
     ・日蓮もまた12歳の時、仏道を志すに当たり虚空蔵菩薩に21日間の祈願を行った。
     ・京都嵐山の法輪寺には「十三詣り」が行われ、13歳になる少年少女が虚空蔵菩薩に智恵を授かりに行く。

 3五大虚空蔵菩薩像(虚空蔵菩薩のみ五体を群像としたもの):

  4虚空蔵菩薩に関する経典:
   1・大集大虚空藏菩薩所問經 (T.404)
   2・虛空藏菩薩經      (T.405)
   3・佛説虚空藏菩薩神呪經   (T.406)
   4・虛空藏菩薩神呪經    (T.407)
   5・虛空孕菩薩經      (T.408)
   6・觀虚空藏菩薩經     (T.409)
   7・虚空藏菩薩能滿諸願最勝心陀羅尼求聞持法 (T.1145)
   8・大虚空藏菩薩念誦法
   9・聖虛空藏菩薩陀羅尼經  (T.1147)
  10・佛説虚空藏陀羅尼    (T.1148)
  11・五大虚空藏菩薩速疾大神驗祕密式經(T.1149)
  12・虛空藏菩薩問七佛陀羅尼呪經   (T.1333)
  13・如來方便善巧呪經
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  参考:「虚空蔵菩薩の功徳についてー「求聞持法」を中心としてー」小峰啓誉(智山学報 第五十九輯)

 

  これまで見てきた事例では虚空菩薩像は次の二例があります。
  ・金剛証寺(伊勢市朝熊町岳):
    ・その草創は、6世紀中葉、欽明朝に僧・暁台が勅により明星堂を創めたと云われ、
    ・825・天長2年、空海が真言密教道場として当寺を中興、密法の道場としたと云います。
    ・その内陣には数々の仏像が祀られていますが、ご本尊は秘仏・虚空蔵菩薩で、伊勢神宮の内宮の祭神・

             天照大神の神代・大鏡と共に祀られている由です。
 ・磐裂神社(日光市上鉢石町)の祭神は磐裂神・根裂神ですが、本地は虚空蔵菩薩です。
                    参照:星宮の謎2  本地仏・虚空蔵菩薩は明星なり 2020年11月23日


<5> 五智如来

 「五智如来」については、「Japan Knowledge」に次の様な記述があります。
      1「密教の世界観には、教主である大日如来の理を表す胎蔵界と、智を表す金剛界という二つの世界がある。

     大日如来が備える五種類の智慧を五智(法界体性智、大円鏡智、平等性智、妙観察智、成所作智)と云い、

     五智を象徴する金剛界の五如来を五智如来という。」
      2 「空海が三次元化した五大菩薩」
    3 密教では、大日如来は宇宙そのものであり、真理そのもの。別格の存在ゆえ、如来としては例外的に華々

     しい姿をしていると考えられる。
     胎蔵界大日如来は法界定印を、金剛界大日如来は智拳印を結ぶ、異なる姿で表される特徴あり。
      4そもそも如来とは、悟りを開き、人々を救済する仏のこと。仏教成立当初は、釈迦如来のみだったが、
       その後、阿弥陀如来や薬師如来、大日如来などが加えられた。」

 

 この中で「空海が三次元化した五大菩薩」や「仏教成立当初は、釈迦如来のみだったがその後、

阿弥陀如来や薬師如来、大日如来などが加えられた。」の表現の意味を考えて見ます。

 空海をはじめ多くの仏僧が、民衆に仏教教説の理解を深めさせるために、仏教世界を「見える化」しなければいけないと考えた、と思われるのです。

 そのために、「曼荼羅図」を描いたり、「仏像・仏画」を製作して、この仏像・仏画を拝めば「功徳」があるとして難解な仏教を判り易くしようとしたものと思われます。

 「南無阿弥陀仏を十回唱えなさい。それによりあなた方は救われます。」
 「この仏様(仏像)をお近くに置き、拝みなさい。それによりあなた方は救われます。」
  ・・などの簡略化により教説の難解な部分をお題目や仏像に託して、教説を略しているのです。

 

<6> 空海の「虚空蔵求聞持法」修行

 「虚空」論の結びは空海であるべきです。


 空海は、若い頃、高知県の室戸岬の崖上に座禅を組み、「虚空蔵求聞持法」を修行していた時、明けの明星が口の中に飛び込んでくるという不思議な体験をした由です。
       虚空蔵求聞持法:正式には「虚空蔵菩薩能満所願最勝心陀羅尼求聞持法」で、八世紀初めに

                 道慈によって伝えられたと云う。

 明けの明星は虚空蔵菩薩の化身とされていますから、空海はこの体験により虚空蔵菩薩と一体化した証だとされ、語り伝えられています。

 832・天長9年8月22日、高野山において最初の「万燈万華会」が修された時、空海は、願文に「虚空盡き、衆生盡き、涅槃盡きなば、我が願いも盡きなん」と想いを表し、この秋より、空海は

高野山に隠棲し、穀物を断ち禅定を好む日々に入った由です。

 

 この「虚空盡き」はどの様な意味でしょうか。

 

   835・承和2年3月21日、第八祖・空海は入定します。享年62才。