◇解けぬ謎:疑2 なぜ葛城と丹波に伊加理姫が祀られているのか

 今、私たちは葛城(長尾神社)と丹波(伊加理姫神社)の二つの地域に、瓜二つとは申しませんが、極度に類似した祭祀の実在を見たわけです。即ち、次の二社は祭神がほぼ同じです。
      ・葛城:長尾神社(大和國葛下郡、葛城市当麻町長尾) 祭神:水光姫命(伝=伊加里姫)・白雲別命
      ・丹波:伊加里姫神社(丹後国加佐郡、舞鶴市京田)  祭神:伊加里姫、

 しかも、丹波(丹後志楽)の伊加里姫神社は白雲山の麓にあり、葛城の長尾神社も、やや離れてはいますが、天彦神社後方に神体山・白雲峰があります。
 双方に白雲山があるのは偶然でしょうか。

 そこで、次に最も基本的な謎「何故、葛城と丹波に伊加理姫が祀られているのか」を考えねばなりません。

  先ず、天孫族と伊加理姫一族との通婚関係を明らかにするため、図表6・7を再整理すると、図表8を得ます。次の如くです。
 ここでは鎖線よりも上の系譜図は伊加理姫や天村雲命の祖先系譜を確認する為に入れてあります。

  全体像を眺めるためです。
  次に、鎖線以下の図では、[剣根命・伊加理姫・天村雲命]を一列に並べ、夫婦関係を明かし、その子等をその下列に配してあります。こうすると、この[剣根命・伊加理姫・天村雲命]の子等が全て夫婦になっている姿が容易に見て取れるでしょう。

  天村雲命の二児(天忍人命・天忍男命)は葛木剣根命の二女と結婚し、その二組のカップルから生まれた二児(建額赤命・天戸目命)も「葛木」を冠とする剣根命の別の二女と結婚を重ねています。

 

  これは、所謂、「叔母甥婚」です。

  この一連の通婚は、天孫族と高魂命系・剣根命との間の、二代に亘る念入な二族間通婚の姿です。   

  剣根命と天村雲命の二族が惹かれ合った理由は高貴血統性だと思われます。

 高皇産霊尊5世孫を名乗る剣根命一族は、融和のために、先住の国神・白雲神の女・伊加理姫を娶ることで葛城での地歩を固め、剣根命は「葛木直の祖」とまで云われたのでしょう。
 一族は祖神・高皇産霊尊の裔孫であることを強く意識し、「葛木」を誇りとし、その子らの名前に「葛木」を冠することになります。高貴血統一族が国神・白雲神一族と結ばれることにより、この地域にうまれた、社会的な安定感を人は見取るでしょう。

 他方、丹波志楽に上陸した天村雲命一族も、融和を求め、丹波志楽に先住の国神・白雲神の女・伊加理姫を娶ります。この伊加理姫にも葛木出石姫と云う「葛木」を冠する娘がおり、父・天村雲命の異母兄弟・天忍人命と結婚します。
 この「葛木」を冠した女むすめ・葛木出石姫を持つ故に、伊加理姫は葛城の人である可能性が高いと思われます。その上、伊加理姫の子・倭宿禰命は大和朝廷に仕え、大和滞在の時、白雲別神の女、伊加理姫の妹・豊水冨(白雲別神の女)を妃に迎えているのです。 どうも伊加理姫は葛城の人と云えそうです。

 「剣根族・天孫族と伊加理姫一族との通婚関係」を図表8に示しますので、ご吟味下さい。


   

 

◇「女神物語ー伊加理姫」に関するシナリオ仮説
  伊加理姫についての資料照合に当たり、伊加理姫の周りに「解けぬ謎」が取り巻くので、これまで数ヶ月、この古代史の一断面を理解するのに苦しみ悩んで参りました。

 その時、ふと気づいたのは、図表8の中段に示しますように、剣根命妃の名前が明らかでないことでした。そこで、色々の資料を総括した「伊加理姫仮説」が浮かび上がってきたのです。

 ここでは「葛城と丹波の伊加理姫同一人」説に基づき、「伊加理姫シナリオ仮説」を提出して、この一文の締めと致します。ご説明しましょう。