キレーな顔だな…と思った。
女の子でもいけそうな顔立ち。
しゃべる様を見て、お、見た目の割にしたたかだなとも思った。
あまりの美しさに光り輝いてすら見える。
同じ人間とは思えない。
別の世界のイキモノ。
そんな感じ。
私は当たり前に日常に戻った。
交わるはずのない人生。
好きという感情が芽生えたかも分からない。
それは決して許されるべきでは無いから。
全て持ってる人間も居るもんだ。
私とは違って。
見た目でも勝ち組、
要領良く世渡り上手。
社会的地位。学歴。
何一つ持ち合わせないぶきっちょな私が惨めに見える。
住む世界が違うと割り切れば
私が救われるのだ。
見るな。見るな。
これ以上知ってはいけない。
私は彼から逃げた。
数年後。
相変わらず逃げるのが得意な私は
人間関係に疲れて逃げ込む場所を探してた。
ふっと彼の顔が浮かぶ。
何も言わない我慢強い性格も知ってる。
「ねぇ、ここに居る事、誰にも言わないで」
頷く彼。
ホントに言わないかしら?
信用してない私。
更に意地悪なお願いをする。
「付き合ってないんだから、指一本触んないでよね」
驚いた顔を一瞬見せ、
すぐに平常心に戻り頷く彼。
ホントかな?
疑っている私。
そうして不思議な同居生活が始まった。
彼は確かにルールを破らない。
1日経ち、2日経ち、段々私の心がほぐれていく。
この人は私の気持ちを無下にしない。
そんな気持ちが芽生え始める。
初めての感覚。
男って皆、私の保護者ヅラをして
指示を出してくるものだと思ってた。
そうして所有物みたいな扱いを受けるのが
当たり前だって思ってたのだ。
彼はまるで私を研究する飼育員みたいだ。
注意深く見守って心地よく過ごせるよう
気を配る。
そして約束通り、指一本触れない。
隣ですやすや眠る横顔を見つめていたら 、
今度はだんだん腹が立ってきた。
どうして私を好きって言わないの?
叩き起こそうかな?
……いや、触るなと言ったのは私か。
だってなんか男とか女とかそういうのもう疲れたし。
他に行くとこ無かっただけだし。
なんで平気で寝れるのかしら?とムカつきながら
背中を向けて寝る努力をする。
私はただ、大事にして欲しかっただけだ。
あれ?大事ってこういう事だっけ?
気付くと涙が流れていた。
朝になっても起きてこない私を心配そうに
覗き込む彼。
なんか悩みすぎちゃってむくれている私。
言いたい事ありすぎて上手く言えなくて
「意地悪!!!!」と言ってみる。
途端に笑いだし、
「何が?w約束ちゃんと守ってるでしょー?w」
と彼。
「だから意地悪!!!!」ともう一度八つ当たりする。
「じゃあ、どうすればいい?」と彼は微笑む。
私は布団の中から小さな声で「だっこ」と言ってみる。
布団をめくってハグしながら彼は言う。
「他には?」
彼の胸に顔をうずめたまま小さく「好き」と呟く。
彼は「オレ我慢しないけどいい?」と笑いながら
私の願いを叶える。
好きになるの怖かった。
失わないか怖い。
その恐怖に耐えきれない。
「離れないで」
その言葉に答えるように彼は私の中で果てる。
私は彼で満たされたい。
私中が彼で埋まればいい。
誰がどう見ても 私は彼のものだと分かるくらい
彼に染まりたい。
だからいつも愛が重いとフラれる。
相手の愛し方が足りないと思ってしまう。
ココだった、と思う。
ココじゃ無かったから上手くいかなかった。
もう怯えなくてもいいのかもしれない。