弁護士石井一旭のよしなしごと

弁護士石井一旭のよしなしごと

京都市中京区・あさひ法律事務所弁護士石井一旭のブログです。
折を見ては書いている個人的備忘録ですが、
これもいつか誰かを暖めうるかもしれません。
一隅を照らす、これ即ち国宝なり。

最近、「誤って他人の口座に振り込んでしまった」というご相談を受けました。

 

1  「組戻」手続について

振込先を間違って振り込んでしまった場合、まずは金融機関に相談しましょう。

金融機関側で「組戻」という手続を行ってもらい、誤った振込を取り消してもらうことができます。

(金融機関所定の手数料が必要です。)

ただし、振込手続きを行った金融機関から、振込先の金融機関を通して

受取人に返金手続に協力して貰う必要があります。

 

受け取った側からすれば、見に覚えのないお金が振り込まれていて、

その組戻しのために金融機関に行って手続をしなければならないので、煩雑です。

ですので、組戻しをお願いしても時間がかかることが多く、

中には任意に協力をいただけないケースもあります。

また、受取人と連絡が取れない場合や、返金を認めてくれない場合も、

組戻手続によっては誤振込の返金を求めることはできません。

 

2 組戻ができない場合

組戻では返金ができない場合、法的手続によって誤振込分を取り戻すことになります。

誤振込は法律上の原因(要するに振込の根拠です)がないものですので、

誤振込をした者から誤振込受取人に対して不当利得返還請求権が発生しており、

これをもとにして誤振込金の返還を求めることになります。

 

知り合いの口座や通販会社の口座など、

誤振込の受取人(口座名義人)が判明している場合であれば、

その口座名義人に対して内容証明郵便等で不当利得返還請求を行い、返還を求めます。

それでも返してもらえなければ、不当利得返還請求訴訟を提起することになります。

 

問題となるのは、その手がかりすらない場合です。

金融機関からは原則として口座情報の開示を受けられないため、

この場合は住所氏名不詳として訴訟を提起し、合わせて裁判所を通じて銀行に調査嘱託を行うことで、

銀行から口座名義人の情報開示を受ける方法が考えられるところです。

 

いずれにしても、誤振込の受取人に組戻・払戻の手続に協力してもらえない場合は、

訴訟によって解決するしか方法はありません。

組戻に応じてもらえない場合は、金融機関も対応してくれませんので、弁護士にご相談ください。

 

3 誤振込金の使い込みについて

自分の口座に誤って入金された金銭を勝手に使った場合、どうなるでしょうか。

 

まず、誤って入金されたものであることを知りながら使い込んでしまった場合は、

悪意の受益者として、使い込んだ金額に利息を付して返還しなければならず、

損害が発生したときはその賠償責任も負います(民法704条)。

 

他に、誤振込であることを知りながら金銭を引き出す行為は、

金融機関に対する詐欺罪・窃盗罪に該当する可能性もあります。

受取人は、誤振込があった場合には誤った振り込みがあったことを銀行に告知すべき

信義則上の義務を負担しており、金融機関に黙って誤振込金を引き出す行為は詐欺行為となるのです。

(最高裁平成15年3月12日決定)

 

ただ、例えばカードや公共料金の引き落としなど、受取人が全く知らないところで

誤振込金が自動的に引き落とされてしまったような場合は、

金融機関に対する詐欺行為がありませんし、「悪意の受益者」ということもできません。

この場合は刑事上の責任は成立せず、

しかも民事上も民法703条により、現存利益、つまり残金のみ返還、とされるおそれがあります。