弁護士石井一旭のよしなしごと

弁護士石井一旭のよしなしごと

四条烏丸法律事務所・弁護士石井一旭のブログです。
ゴクマレに書いている個人的備忘録ですが、
これもいつか誰かを暖めうるかもしれません。
一隅を照らす、これ即ち国宝なり。

10月1日本日から、商業登記簿上の代表者住所を非表示にできる制度がスタートします。

 

非表示と言っても完全に隠されるわけではなく、

「最小行政区画までしか記載されない」ということになります。

例えば

「京都市中京区」「岐阜県大垣市」のように市区町村まで

(東京都においては特別区まで、指定都市においては区まで)は

表示されることになりますが、

これで登記簿から自宅がわかってしまうことは相当程度回避できるようになります。

 

注意しなければならないのはあくまで「非表示」なだけで、

登記申請には住民票なり印鑑証明書なりで正確な住所を申請しないといけないことです。

「非表示」なだけですから、例えば登記簿上「京都市中京区」と表示されている代取Aさんが

「中京区桝屋町」から「中京区上本能寺前町」に引っ越した場合は、

確かに登記簿上は「京都市中京区」で変更がないものの、

実際は住所が移転しているので、住所変更登記を申請しなければいけません。

 

さてこの非表示制度ですが、

自動的に非表示措置が施されるわけではないですし、

いつでも申請できるわけでもありません。

 

住所非表示の申出は、会社の設立や代表取締役の就任・重任・住所移転など、

代表取締役の住所が登記されることになる登記申請と同時に行う場合に限って可能となります。

 

申出をする場合には、登記の申請書に、
 ・代表取締役等住所非表示措置を希望する旨
 ・代表取締役等住所非表示措置の対象となる者の資格、氏名及び住所
 ・申出に当たって添付する書面(実質的支配者リストの保管の申出をしている場合は、その旨及び申出先)
を記載します。

 

申出にあたっては、以下の書類を添付する必要があります。

 

●上場会社である株式会社の場合

株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面

代表取締役等住所非表示措置の申出をする株式会社の上場に係る情報が掲載された金融商品取引所のホームページの写し等が該当します。

 

●上場会社以外の株式会社の場合

以下の(1)から(3)までの書面をすべて添付する必要があります。

 

(1) 株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便により送付されたことを証する書面等

 

株式会社が受取人として記載された配達証明書、

及び株式会社の商号及び本店所在場所が記載された郵便物受領証についても併せて添付します。

配達証明郵便を利用していなければ、従業員などに出して貰う必要があります。

郵便料金の値上げのこともあり、なかなか面倒な要件ですね。

 

これに代えて、

登記の申請を受任した資格者代理人において

株式会社の本店所在場所における実在性を確認した書面を

添付することもできます。

資格者代理人に依頼する場合は、この書面を利用することが簡便でしょう。

    

(2) 代表取締役等の氏名及び住所が記載されている市町村長等による証明書

・住民票の写し

・戸籍の附票の写し

・印鑑証明書

などになります。

これは就任登記などで添付するものと兼ねることができます。

 

(3) 株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面

法人において実質的支配者に関する情報を把握する必要性が

高まっていることから求められている要件です。

 

実質的支配者(BO)とは、

法人の議決権の総数の4分の1を超える議決権を

直接又は間接に有していると認められる自然人等をいいます。

 

この実質的支配者を明らかにする書面も提出しなければなりません。

具体的には下記のようなものがあります。

 

・登記の申請を受任した資格者代理人(※1)が

犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)の規定に基づき

確認を行った実質的支配者の本人特定事項に関する記録の写し

 

・実質的支配者の本人特定事項についての供述を記載した書面であって

公証人法(明治41年法律第53号)の規定に基づく認証を受けたもの

 

・公証人法施行規則(昭和24年法務府令第9号)の規定に基づき

定款認証に当たって申告した実質的支配者の本人特定事項についての申告受理及び認証証明書

 

後二者は公証人役場を利用しなければならないので、これも面倒ですね。

これも資格者代理人を利用するほうが簡便でしょう。

 

※1 法務省HPでは司法書士(法人)に限定していますが、法令上弁護士を排除するものではないと思われます。

 

 

以上のように、代表取締役の住所を非表示にするのはそれなりに手間がかかります。

誰も彼も非表示になって不便が生じることにはならなそうですし、

実際に非表示の申出を行う際は、資格者代理人に依頼するのがよさそうです。