試合終了後、観客席の高山恭子は顔を上げて大きなため息をついた。
秋よりも更に悪い、5回戦での敗戦。
恭子の頭の中には様々な思いが駆け巡った。
「何か嫌な予感はしたのよね。四日市西さんは負けちゃうし、鶴ヶ丘さんも苦戦してたし。」
「去年もこんな試合あったけど、ギリギリ勝っていたよのね。夏の5回戦とか。」
「去年と比べるとチーム力も落ちるし、夏に勝ち切るには余程頑張らないと。」
「あと、やっぱりコントロールが悪い相手には待球で挑んだほうが良かったかもね。監督も散々迷っていたけど、結局先発投手に長いイニング投げさせてしまったのが一番の敗因だし。」
「ショートも大住君ではちょっと苦しいかも。かと言ってあの三人ではやっぱり心もとないし。」
「彼ならばできるかもっていう生徒が一人いるけど、しばらく試してみようかな。」
「そうそう、今回はベンチ外となったけど、島津君の打撃はやっぱり捨てがたいのよね。彼を上手く使う方法って何かないかなあ…」
「スキル、特にヒットエンドランは本当に必要か考え直さないといけないかな。あまり発動もしないし、ただでさえ長打よりミートのほうが優れた選手が多いし、幸いまだ5回はスキルの変更ができるし、やるしかないよね。」
「あ~、やることや考えることが多すぎるわ。でもかなり無理言ってやらせてもらうことになったから、問題山積みだけど頑張らないとね」
高山恭子、新卒一年目の新米教師。
そして、今後は旭が丘高校野球部の戦略担当になる予定だ。
学生時代に弟の試合を見ながら制作した旭が丘高校野球部の詳細なレポートを監督に提出し、是非とも戦略担当をしたいと頼み込んだのだ。
ちなみに卒論も高校野球に関するもので、テーマは「高校野球における流れの心理的側面」である。