羊文学「春」

 

 

もういいかい 君に本当のことを話すよ
とても とても とても とても とても
嫌い 嫌い


 

今週3回目の完投をさせられた斉藤夏輝は、再び成績を下げた。

 

いくら大エース平山が経験したこととはいえ、采配ミスでの3完投はやり過ぎである。

 

周囲からは、「ここまで来ると監督によるいじめやな。」と言われた。

 

監督も悪いと思ったのだろうか、クリスタル(努力の結晶)を夏輝に与え、能力はずっと上がった。

 

夏輝はとても嬉しかったが、「いじめ」と聞くと林礼子のことを思わずにはいられなかった。

 

小学校6先生の時に学校放送で礼子が読んだ読書感想文で、彼女がいじめられていたことを初めて知った。

 

「いじめ 14歳のMessage」を読んで

6年2組 林礼子

 

 私はいじめられていました。靴を隠されたり、机に「ブス」と書かれた紙を入れられたり、露骨に無視されたり、トイレで上から水をかけられたりしました。最初は少人数でしたが、段々とエスカレートして、多くの人から直接いじめを受けたり、無視されたりするようになりました。最初は我慢していました。しかし途中から本当につらくなってきました。

私は自分がいじめられる理由が分かっていました。私は4年生くらいまでは結構生意気で、自分がクラスの中心にいなければ気が済まないような感じでした。5年生になり、将来は医師になりたいと思って勉強をし始めましたが、今まで大きな顔をして肩で風を切るようにしていた私が急に勉強を始めたことが、きっと周りの人たちには不愉快だったのだと思います。

イジメに耐えられなくなった私は、まず母親に打ち明けました。そして、先生に自分がいじめを受けていてつらい事、でも自分にも非がるとあると思うので、クラスメイトの前で正直に話したいと言いました。先生は私の気持ちをくんでくれて、私のためにホームルームの時間を作ってくれました。私はクラスメイトの前で、今まで生意気な事ばかりしてごめんなさい、いじめられたり無視されたりするのは辛いので止めてくださいと正直に話しました。すると、それから私はいじめられなくなり、クラスで普通に過ごすことが出来るようになりました。

この物語の主人公である彗佳も、クラスメイトから壮絶ないじめを受けました。きっかけはいじめられていた親友の千夏をかばった事でした。私と違って彗佳にはどこも悪い所がありません。むしろ正しい事をしていじめられてしまったのです。

学校の先生も彗佳を助けてくれませんでした。教室で水浸しになって、明らかにいじめられていた様子を見せていたのに、先生は何も手を差し伸べてくれませんでした。

いじめが辛くて夜の街をフラフラしていた時に出会ったのが友理絵でした。友理絵は、事故でご両親と視力を失い、失明したことで差別を受けて学校に行けなくなっていました。友理絵はいつも彗佳に「ガンバロウ」って声を掛けてくれました。彗佳はその言葉を聞いて頑張ることが出来ました。しかし結局最後は自殺という道を選んでしまったのです。それは、友理絵と合った翌日、いじめっ子の陽子に「(友理絵も)お前のことをうっとうしく思っている」と何度も強く言われたからでした。

彗佳は自殺を試みてから死ぬまで、長い間幽体離脱の状態になりました。その時に、ご両親や友理絵、千夏など多くの人に自分がいかに愛されていたかを知り、自殺したことを後悔しました。しかし命は戻りません。

私は、彗佳が自殺を選んだ一番の要因は、学校に行ってしまった事だと思いました。私の場合は、先生が対処してくれたから良かったのですが、彗佳の場合は先生もあてにはならず、学校に味方がいませんでした。友理絵の優しさよりも、学校の辛さが上回っていたのだと思います。助けてもらえる人がいたら助けてもらう、いなければ逃げる。そうして自分を守ることが大事だと思いました。

 

当時の夏輝には、礼子がいじめにあっていることも驚きだったし、それを読書感想文にしたのも驚き、そしてそれを選んで全校放送で読ませた教師にも驚きだった。

 

だがそれ以上に驚きだったのは、いじめの主犯格の正体だった。

 

夏輝がそれを知るのは1年後になる。