鈴鹿ケーブルテレビ制作
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夏の甲子園三重県大会決勝
旭が丘高校の一番暑くて長い夏
挿入歌:羊文学「光るとき」
ナレーター:桂木麻紀
9回表~秘蔵っ子~
9回の時点で5点差が付いていれば、勝ったも同然だと周囲は思うでしょう。
しかし、小林監督は違いました。
監督は就任1年目に見たある甲子園での試合が脳裏から離れないと言います。
9回裏に6点が入って逆転サヨナラという試合を目の当たりにして、勝負ごとに絶対はないと思い知らされたそうです。
監督がそう願った9回表の攻撃は、1番の岡田優輝君から始まりました。
岡田君は昨年の秋季大会の時も今年の選抜甲子園大会の時も旭が丘のキーマンだと監督に言われていました。
岡田君は監督にとって秘蔵っ子です。
新年度が始まった4月1日の入部。
この時は、セカンドにしては守備力が足りず、レギュラーは難しいかもと思ったそうです。
しかし、試合で使うたびに素晴らしい活躍を見せ、他のライバルたちを押しのけ正二塁手の座につきました。
そこからは英才教育。
守備力強化のための堅守開眼はもちろん、集中力と豪打開眼も上限まで使用されました。
そして、最後の最後には努力の覚醒まで使用され、まさに手塩にかけて育てられた存在でした。
しかし、その歩みは決して順風満帆とはいかなかったようです。
あまりにエラーが多いので、一時は外野へのコンバートも模索されました。
この冬には骨折という大怪我もしています。
打力はベンチ入り野手陣14人中11番目。
打力優先のこの世界の中では、どうしてもその非力が目立ってしまいます。
それでも監督はかたくなに岡田君を育て、使用し続けてきました。
その岡田君が、監督の不安を払拭すべくライト前ヒットで出塁します。
しかし後続が抑えられ、塁を進むことが出来ません。
2アウト1塁で、迎えるバッターは4番熊本君。
力強いスイングから放たれた打球は左中間に落ちます。
鶴ケ丘高校のセンター土井君が回り込んで上手く打球を処理しましたが、1塁から岡田君が快足を飛ばしてホームイン。
喉から手が出るほど欲しかった貴重な追加点が、監督の秘蔵っ子によりもたらされました。
旭が丘 8-2 鶴ケ丘
9回裏~涙の最終回~
川村のおばちゃん 「ああ、もうどうしよう、どうしよう。こんなん見とられへんわ。」
そう言いながらテレビの前で立ったり座ったりしている和子さん。
まるで息子のような存在と語る山路君を見ながら、ハラハラして仕方なさそうです。
それもそのはず、9回裏、先頭の林君と次の市橋君に連続ヒットを打たれ、ノーアウト1,2塁のピンチを迎えたからです。
小林監督はタイムを取り、背番号10番の高根勇輝君を伝令に送ります。
高根 「監督からは、とにかく落ち着いて1アウトずつ取るように、例えランナーがサードに行っても構わないから、内野手は近くでアウトを取るようにと指示を受けました。自分はそれに加えて、こんなシチュエーション、いっぱい練習したやろうと言いました。」
”いっぱい練習したやろう”
この言葉がフィールドに出ているナインの落ち着きを取り戻したと、のちに藤森キャプテンが話していました。
いっぱい練習した、その練習の成果を普段通り出せばいいのだと。
次の7番下山君の打球は1,2塁間へ。
抜けるかと思われた当たりを、先制ホームランのファースト黒須君がダイビングキャッチし、2塁へ送球してフォースアウトを取りました。
監督の指示通りのナイスプレー。
ランナー1,3塁になって、旭が丘内野陣は中間守備を取ります。
次の打者、代打の小高君に対し、山路君は低めを突いて内野ゴロを打たそうとします。
これも普段の練習通り。
結果、最後は得意のフォークボールで三振を取りました。
2アウト。
…
(スタンドでは岡田明日香と石井真理の祈る姿)
(川村のおばちゃんが祈りの姿勢を取りながらじっと目を見開いてテレビを見ている姿)
…
ドクン、ドクン
…
実況 「ピッチャー第2球を投げた、打った、セカンドゴロだ。岡田が取って1塁へ送球、アウト!この瞬間、旭が丘高校の2年連続2回目の甲子園出場が決まりました!」
…
サイレンの音。
マウンド上の山路の元に集まる旭が丘ナイン。
…
真理 「キャー、やった~、明日香おめでとう!」
明日香 「ありがとう、ホント嬉しい!良かった…」
抱き合って喜ぶ明日香と真理。
…
「山ちゃん…、本当に…、本当におめでとう…。本当に、くじけずに…よう頑張った…」
目を真っ赤にしながら、大粒の涙を流す川村のおばちゃん。
「本当、よう頑張った…」
エンディングテーマ:サンボマスター「できっこないをやらなくちゃ」